働く女性らストレスで
過度の洗顔や夜更かし禁物
「大人のニキビ」で悩んでいる女性が、あなたの周りにいないだろうか。特に夏場のこの時期は症状が悪化し病院を訪れる人が増える。その多くが2、30代の女性だ。10代では青春のシンボルと呼ばれたニキビも、20代以降は健康のバロメーターといえそう。肌を守るためにも、日常の暮らしを見つめ直してみよう。

「昔はニキビなんてほとんどできなかったのに、最近は増える一方。仕事が忙しく、家に帰っても疲れ果てて眠るだけ。休みも週1回しかとれない」
東京都新宿区に住む会社員の女性(25)が、同区にある東京女子医大のニキビ外来を訪ねたのは先月だった。3年前にスタートした同外来で、診察に当たった皮膚科学教室の林伸和講師は、「患者の数は10対1ぐらいの割合で女性が圧倒的に多い。しかも20代から30代前半の人が中心」と指摘する。
こうした実態は、資生堂リサーチセンター(横浜市)の調査でもくっきり表れている。同社の北村謙始・主幹研究員によると、首都圏、近畿圏に住む20−39歳の女性538人を対象にアンケートしたところ、「ニキビ・吹き出物ができやすい」「ややできやすい」と答えた人は55%に上った。2、30代の女性の半数以上が、思春期を過ぎてもニキビに悩んでいるというわけだ。


ニキビのできるメカニズムは思春期も成人後も同じだ。皮脂の通り道である毛穴に皮脂や汚れがつまり、毛穴の中でアクネ菌などの細菌が増殖する。この皮脂が分解される過程でできる遊離脂肪酸と呼ばれる物質が原因となり、炎症が起きニキビとなる。
一方、吹き出物と呼ばれる大人のニキビが思春期のそれと違っている点はできる場所やその症状だ。思春期には額、みけん、鼻など顔の「Tゾーン」や上部中心にばらばらと散発的にできる。これに対し大人の場合は、ほお、口の周り、あごなど顔の下部や、首にぽつんと単発的にできる。症状が悪化すると、点から面になって赤みが広がってしまうこともある。なぜ年齢とともに位置が下部に移動するかは解明されていない。
原因も異なる。思春期には男性ホルモンの分泌が増えて、皮脂腺の働きが活発になる。このため、皮脂の分泌が盛んになってニキビができやすくなるが、大人の場合は原因が複雑に絡み合っている。
「症状悪化の最大の原因はストレスだろう。不規則な生活や食事、睡眠不足など程度の差はあるが、これらは働く女性に共通した悩み」と林講師は指摘する。仕事や職場での人間関係などでストレスが募り、ホルモンのバランスを崩す人も少なくない。
生理の周期も関係している。2、30代の女性2千人余りを対象にした北村研究員らの調査によると、ニキビができる要因の一つに生理を挙げた人は約6割に上り、そのほぼ半数が生理前にできると答えた。生理前の1週間ほどはホルモンバランスが大きく変わる黄体期といわれ、肌の状態が不安定になる時期でもある。さらに化粧の影響なども考えられる。
では、大人のニキビはどう対処したらよいだろうか。予防したり症状悪化を防いだりするための3原則は「汚れの除去、規則正しい生活で体調を整えること、できてしまったら触らない・つぶさない」と北村研究員は強調する。


年齢とともに肌の状態は変わり、肌をケアする方法も変える必要がある。汚れの除去も思春期のころとは当然違ってくる。刺激となる肌の汚れだけを取り除き、必要以上に無理な洗顔はしないことが大切だ。過度の洗顔はかえって肌の状態を悪化させてしまう。
体調を整えるには、夜更しを避けて睡眠時間を確保する。食事も食物繊維の多い野菜を中心にバランス良く3食きちんと取り、適度な運動でストレスをためないようにする。しかしこうした規則正しい生活を送ることはなかなか難しい。
林講師は「自身の生活を見つめ直し、まずは可能なところから修正することが大切。意識の持ちようである程度理想に近づけられる」と助言する。
ニキビを悪化させないためにも触ったり、つぶしたりはしないことだ。林講師らの調査では、女性の8割が悪いとわかっていながら触っていると答えた。触ったり、つぶしたりすることが無意識のうちにストレスのはけ口になっている人もおり、心のケアを含めた治療法が必要といえそうだ。
大人のニキビは治療に半年から1年かかるケースもある。つぶしていったん跡が残ってしまうと、よい治療法はない。常日ごろの肌のケアと同時に、炎症を起こした場合などは早期に専門医に相談することを心掛けたい。
                        

思春期と大人のニキビの違い
(資生堂リサーチセンターまとめ)
年齢
10代
20歳以降
場所
額、みけん、鼻など ほお、口の周り、あごなど
季節
春―夏に多い 一年中
原因
皮脂過多 ストレス、体調不良、生理など

 

2003.7.12日本経済新聞