できれば受けたくないクレーム電話やメールだが、そこに製品の改良など会社のためになる手がかりが隠されていることもある。長い会社生活のクレームとの闘いを本にまとめた2人に、対処のコツとクレーム活用術を聞いた。
「社長をだせ!実録クレームとの死闘」(宝島社)の著書、川田茂雄さんはカメラメーカーで20年以上クレーム対応をしてきた。「上司・社長を連れてきなさい」と何度も言われながら「この件は私にお話をさせて下さい」と粘り、自分で解決できなかったことは1件もないという。
第一の心得はたらい回しをしないこと。「その件は、この技術者が担当。そのケースは○○部門が担当なのでそちらから回答を」では、相手をイライラさせるばかりだ。
「電話や文書で説明するより相手に会う方が解決は早い」という。使用法の誤解などがすぐにわかるからだ。フィルムがうまく巻き取れないといわれ、カメラを預かり不具合がないのを確認して返したが、客は「また動かなくなった」。実際に出向き、相手に扱ってもらうと、フィルムのセットが間違っていたことがわかった。モノに関する苦情は実地検分がてっとり早い。
第二のポイントは社内での情報共有。「貴重なご意見ありがとうございました。関係部署に伝え、参考にさせていただきます」。苦情対応の常とう句ともいえるこのせりふを実行することが大事だ。
苦情は人聞きのいい話ではないので、自分や直接の上司までのところで留め置きたいという心理が働くことがある。しかし、お客さんの言い分に理があると思ったら、文書やメールで社内の関係部署に必ず伝えた方がよい。
メーカーの想定を超えた条件での不具合を申し立てるクレームもあるが、これは商品開発に必ず生きる。ある時、「電池がすぐなくなる」という苦情が相次いだ。報道カメラマンが連続して何枚も撮るという想定条件では問題なかった。しかし川田さん自ら、寒い山で日の出を待ち続けるといった条件で実験してみると、クレームが来るのも無理はなさそうとの結果になった。節電設計や説明書を詳しくする対応が決まった。
「(苦情処理の)キーマンを押さえ、育てる」のが第三の心得。苦情処理の専門部署にいるのでなければ、必要ないかもしれないが、各部に人脈を作っておけば安心だ。
川田さんがカメラ愛好者のインターネット会議を立ち上げたときに取ったのがこの手法。ユーザーの質問に48時間以内で答えることにした。各部門に質問を投げかけ、回答を待ち、作った回答文に社内の"校正"を受ける、という従来の手順では遅い。そこで、うるさ型の技術者に何かと相談できる知恵袋になってもらった。また、よく辛口の意見を寄せていた社外のユーザーに会って仲良くなると、他のユーザーへの説明役を買って出てくれて助かった。
第四の心得は「自分の商品・サービスに自身を持つ」。「それでもお客様は神様ですか?」(大和書房)の著書、青木詠一さんの教えだ。本のもとは「電器売場店員のクレーム日誌」と題して、ホームページにつづったもの。
買って5カ月のミニコンポに「4度目の故障だ」と新品を要求する人。時計の電池交換後、わずかな傷に「弁償しろ」と迫る人。怒り覚えたが、そのうち「本当に怖いのは何も言わず、二度と来店しない客の方」と悟った。
自分の仕事・商品にプライドを持てばクレームに前向きに対応できると青木さん。また苦情を言う相手になりきることができれば、自らの仕事ぶりも冷静に見つめられる。
最後の心得は「まずお見舞い・反省の言葉から」。非を認めるということではなく、「お気持ちはよくわかります」との態度を示すということだ。理不尽な文句をまくしられた場合など、なかなかできることではないが「最初におわびの言葉がなかったことから大事に至るケースがほとんど」と青木さん。相手に非があったとしても「そういう気持ちにさせたことに対してのおわびの言葉を」。
1 たらい回しをせず目の前で解決する
2 社内の関係部署に必ず伝え、解決策を引き出す
3 キーマンをつかまえ、育てる
4 サービス・商品に自信を持つ
5 まずお見舞いの言葉から |
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