飲酒の習慣は文明の開始とともに始まり、数千年以上の歴史がある。一方、たばこはコロンブスがアメリカ大陸から持ち帰り、その後世界中に伝わった。
日本で喫煙の習慣が広まったのは江戸時代以降だ。当時から習慣性や急性毒性は知られていた。貝原益軒も「養生訓」でたばこは「損多し」と指摘している。
現代では喫煙が、がんや心臓病を起こす重要な要因であることは知られている。肺がんや胃がんなど多くのがんで発病のリスクが高くなる。
喫煙は心拍数も増加させ、不整脈を誘発する。末しょう血管を収縮させて心臓の負担を増加させ、心臓病の原因になる。慢性気管支炎や肺気腫、胃・十二指腸かいよう、歯周病などの要因でもあるといわれている。
喫煙は病気の原因になるばかりでなく、老化にもかかわる。皮膚の老化を促進し、顔のしわが増える。ヘビースモーカーには皮膚の張りや弾力がなくなり頬(ほお)がこけてたるんだ人がよくいる。老化に伴う脳の萎縮を促すことも報告されている。
たばこを吸うかどうかで、生物学的年齢を比較したことがある。生理機能や体力などから算出する生物としての年齢で、実際の年は同じでも喫煙者の方が約3歳高かった。喫煙が老化そのものを促すことを示しているといっていい。
先進国では喫煙者の割合が減ってきている。日本人では男性の場合、下がってきているが、若い女性の喫煙率は昔に比べ高まっている。喫煙でやせることが要因の1つと思われる。たばこによって体重は減るものの、男性ホルモンを優位にさせ、おなかに脂肪がたまるようになる。女性の場合、骨粗しょう症や不妊症、流早産の原因にもなるという報告がある。
自分はたばこを吸わなくても他人の煙を吸い込む受動喫煙も注意したい。がんや呼吸器疾患の原因になることが分かってきた。たばこの先からくすぶって出る煙には、喫煙者が吸っている煙よりも有毒物質が多く含まれている。まさにたばこは「損多し」だ。
(国立長寿医療センター疫学研究部長 下方 浩史)
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