ストレス緩和
疲労回復にも
肥満恐れ 敬遠するけれど

肥満や生活習慣病を恐れて、砂糖の摂取に神経質になる人は多いが、糖分は貴重なエネルギー源。脳を落ち着かせ、ストレスを解消する働きをもっている。健康へのプラス面から関心を集めている糖もある。

砂糖は奈良時代に中国から伝わり、薬としてもてはやされたこともあった。日本人1人が1年間に消費する砂糖(原料糖換算)の量は1970年代には約30キログラムに迫る勢いだったが、2002年では同19キログラムに減少している。

ただ、敬遠し過ぎると思わぬ弊害を招く。「脳の唯一のエネルギー源が砂糖の主成分であるぶどう糖」(共立女子大学の井上修二教授)だからだ。

ぶどう糖が少なくなり血糖値が下がると、イライラして集中力を欠く。意識障害を起こすこともある。ご飯やパンでも補えるが、砂糖は吸収が早く効率的という。

ストレスが脳に与える悪影響を和らげる効果もあるらしい。ラットに砂糖を多く含んだエサを与えると、大脳や小脳などでストレスを緩和するたんぱく質が働いていた。ぶどう糖などが3−6個つながったオリゴ糖は整腸作用があるという。

「体に優しい」とのうわさを聞きつけて大手百貨店の買い付け担当者らが販売をもくろむ糖がある。江戸時代から珍重されてきた阿波和三盆(わさんぼん)糖だ。

徳島県上板町で伝統製法を受け継ぐ岡田製糖所の6代目、岡田英彦さんが勧めてくれた和三盆糖はきめ細かい。舌の上ですぐ溶け、あっさりした風味が口に広がった。

和三盆はサトウキビから作る。しぼり汁を煮詰め冷やし固めたら盆の上でこね回し、水分と蜜(みつ)をもみ出す。この作業を繰り返すと白く色が抜けた糖の結晶が残る。盆の上で3日はこねるとことからこの名が付いたとの説もある。

グラニュー糖や角砂糖など機械で精製する一般の砂糖は糖以外の成分を取り除くが、和三盆は手づくりのため「糖以外の成分を完全除去できない」(香川大学の松井年行教授)。ここに和三盆糖の秘密があった。

九州沖縄農業研究センターの杉本明さとうきび育種研究室長によると、サトウキビのしぼり汁には糖以外の栄養分でが豊富に含まれている。疲労の回復効果があるとされるアスパラギン酸や、心臓や筋肉の機能を正常に保つカリウムが多い。

ビタミンB6や脂肪・糖の代謝を支えるパントテン酸などビタミン類もある。表皮に含まれるオクタコサノールがコレステロールを下げる効果もわかってきたという。

百貨店からの問い合わせに岡田さんは手づくりだからたくさんは作れないと断るが、「和三盆はミネラル分も豊富。脳にすっと入るらしく、頭を使う人にいいようだ」と語る。

香川大では健康に役立つ究極の糖を人工的に作ろうとしている。何森(いずもり)健教授らが取り組んでいるのは「希少糖」と呼ぶ自然界にほとんど存在しない単糖だ。

研究の結果、希少糖の医学的な効能が徐々に明らかになっている。何森教授らは培養液に混ぜるとがん細胞が増えにくいことを確かめた。血糖値を下げるインスリンの分泌を促進する働きもあった。

研究成果はいずれも基礎的な段階だが、将来は食品や医薬品などの姿でお目見えしそうだ。とはいえ、糖や脂肪などを取りすぎてカロリーが過剰に増えてしまうと、肥満につながりかねないので注意が必要だ。

主な糖の種類

 
特  徴
代 表 例
単糖 糖の最小単位 ぶと゛う糖、果糖、ガラクトース、希少糖など
二糖 単糖が2個つながった糖。ぶどう糖と果糖がつながったものが砂糖(ショ糖) 砂糖(ショ糖)、麦芽糖、乳糖など
オリゴ糖 単糖が3−6個つながった糖。腸内細菌を増やし、整腸作用がある。 フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖

サトウキビが原料の主な砂糖

製 法
主な製品
主な成分
蜜を含む糖(含蜜糖) 黒砂糖 二糖であるショ糖が全体の8割程度。単糖のぶどう糖や有機酸、香り成分、カリウム、ビタミン類を含む
蜜を適度に取り除いた糖 和三盆糖 ショ糖が9割以上を締めるが、ぶどう糖や果糖、有機酸、カリウムやビタミン類も含み、独特の風味がある
蜜を取り除いた糖(分蜜糖) グラニュー糖、氷砂糖、角砂糖 ショ糖以外の成分はほとんど含んでいない

ひとくちガイド<ホームページ>
◆砂糖を知るために
精糖工業会 http://www.sugar.or.jp/slc/about/seitou.shtml
◆和三盆糖を知るために
岡田製糖所 http://www.wasanbon.co.jp/wasanbon/index_jpn.html
◆希少糖を知るために
香川大学希少糖研究センター医学部分室 http://www.kms.ac.jp/‾kishoto/
2004.4.25 日本経済新聞