キャベツに意外な効能 トンカツの付け合わせ、ロールキャベツ、野菜いため、漬物と、日本人の毎日の食生活に欠くことのできないキャベツ。このごくありふれた野菜が生活習慣病やがん、そして老化を防ぐ高い能力をもつことが、日米の最新研究でわかってきた。巻きのゆるい、若いキャベツほど体内の酸化を防ぐ効果が高いという。

世界のがん研究をリードする米国国立がん研究所は、世界中の研究データをもとにがん予防効果の高い食品が存在することを確認し、ランキングを公表している。キャベツは強壮効果が高いとされるニンニクに次ぐ第二位に位置する。

キャベツの第一の効用は、免疫力を高めることだ。免疫力が高まれば元気になり、かぜを防ぎ、がんから身を守れる。野菜の免疫力を研究している帝京大学薬学部の山崎正利教授は、「キャベツの免疫力を高める働きは医薬品並み」と話す。 いろいろな野菜をすりつぶしてマウスに食べさせ、血液中のTNF(腫瘍=しゅよう=壊死因子)という成分を調べた。TNFは白血球が分泌する物質で、ウイルスやがん細胞を殺す働きがある。その結果、キャベツは、ナスやダイコンと並んでTNFを大幅に増やすことを確認した。その効き目は、がん治療に使う免疫療法(免疫力を高める医薬品)と同程度だった。「これほど効くとは予想していなかった。最初にデータを見た時は、実験手順を間違えたと思ったほど」と山崎教授は振り返る。

キャベツの第二の効用は、体の老化を防ぐ抗酸化力が強いこと。鉄くぎを空気中に置いておくと、やがてさびる。私たちの体内でも同じことが起こっていて、酸化が様々な病気の原因になることはすでに医学界の常識になっている。血管が酸化されると動脈硬化が進み、やがて心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞に至る。遺伝子が酸化されるとがんができる、といった具合だ。 体内の酸化を防ぐ働きを抗酸化と呼ぶ。北海道立花・野菜技術センターの中村隆一研究員によると「キャベツの抗酸化力はアスバラガスやブロッコリーと並んで野菜の中ではトップクラス」。

キャベツの状態や産地の違いで抗酸化力には差がある。最も高いのは「まだ成熟していない、巻きのゆるい若いキャベツ」(中村研究員)という。生育途上のキャベツは、自分の老化を防ぐための有効な成分を消費し切っていないためと考えられる。産地では、北の涼しい所で採れたキャベツの抗酸化力が強い。「南国の強い紫外線はキャベツの酸化を防ぐ成分を消費させてしまう」(中村研究員)からだ。

名古屋大学農学部の大沢俊彦教授によると、キャベツの効き目の秘密は独特の甘い「香り」から来ているという。キャベツの香りのもとは『イソチオシアナート』という成分。これががん予防などの効果を持つと考えられる」(大沢教授) イソチオシアナートは「イオウ化合物」の一種。ニンニクの独特のにおいや、わさびのスーッとする香りもイオウ化合物が作り出している。イオウ化合物の香り成分には、がんや心臓病を防ぐ効果を持つものが多いとされている。

大沢教授は「イオウ化合物を含む野菜には独特の香りや辛みがあり、古くから薬味として珍重されてきたものが多い。香りが健康を増進することを、昔の人は経験的に知っていたのだろう」と話す。 キャベツはこれからが旬。効果を期待するには一日に50〜60グラムは取りたい。生で食べるのがいいが、サラダや千切りとして食べるにはやや量が多い。いためもの、漬物、みそ汁の具にするといいだろう。食べるときには、ほのかな香りのありがたみを感じ取りたいものだ。(『日経ヘルス』編集部)(2000.5.20日本経済新聞)