副交感神経働く
手近なのは読書
あなたは最近、泣きましたか――。「冬のソナタ」をはじめ、このところ泣けるドラマがブームだ。「泣いてスッキリした」という経験がある人も多いはず。この「泣くこと」がストレス解消に大きな効果があることが最近の研究でわかってきた。

涙を流すといっても、ただ泣けば良いものではない。涙には主に目の表面を潤すために常に流れている涙、タマネギなどの刺激による涙、「うれしい」「悲しい」などの感情によって涙の3種類がある。涙の成分は大部分が水で、タンパク質と塩分などが若干含まれている。

アメリカの生化学者、ウィリアム・H・フレイ?氏の実験で、感情による涙とタマネギの刺激による涙にはたんぱく質の濃度などに違いがあることがわかった。西新宿プラザクリニック(東京・新宿)の出村博院長が泣く前後の血液中のストレス成分を調べた実験でも「タマネギでは増えたが、感情で涙を流した直後は大幅に減少した」という。

涙で脳波も変化
涙は脳波の状態にも影響を与える。脳機能研究所(川崎市、武者利光社長)が若い女性にテレビドラマを見せ、涙を流した時の脳波の変化を見た実験では、ストレスを示す脳波が話のクライマックスに向かって上昇し、涙を流した瞬間に一気に低下した。

ほかにも、涙を流した時には体内でロイシン・エンケファリンというストレスを和らげる物質が分泌されるなど、泣くことで体が様々に変化することが認められている。

では、ストレス解消の涙を上手に流すにはどうしたら良いのだろうか。出村さんは「日ごろの生活習慣にもかかわっている」と話す。うれしいときや感動したときは、自律神経のうち、副交感神経が強く働く。この副交感神経を刺激すればストレス解消の涙が流せるというわけだ。このため日ごろから適度な運動をし、食事はゆっくりが基本だ。

副交感神経は朝や昼よりも夜間、晴れよりも曇りの方が活発に働く。入浴後、体が温まって血行が良い時も副交感神経は活発になる。目を乾燥させないことも重要だ。仕事でパソコン画面に長時間向かう人は適度に目を休ませたり目薬をさすなど心がけよう。

"泣きの達人"に泣くコツを聞いてみた。「泣きたいときにはワンワン泣く」というのは東映のTVプロデューサー、たかのてるこさん(33)。多忙でも常にハンカチを持ち歩き、「すきあらば泣いて」ストレスを解消する。たかのさんは素直に泣けるポイントとして「肩ひじ張らずに感情をさらけだすこと」と話す。

たかのさんの友人には夜中に1人で鏡をのぞいてウルウルする」人もいる。泣きたい時に鏡に映った自分の姿を見つめると、これまでの様々な悲しい体験が思い出されて泣けてくるのだという。

期待しすぎない
「普通の『泣ける本』では泣けない」という読書好きOLの堀越英美さん(30)が「自分でも泣ける本」として集めた本が上の表だ。特に絵本は作者に泣かせる意図のない作品も多いため、自然に泣けることも多いようだ。堀越さんは本を読んで泣くためには?泣きを期待しすぎない?最後まで一気に読む?周囲の人の目がない所で読む、を挙げる。どうしても泣けない人には「健康のために泣くんだ、と割り切ってしまえば良いのでは」とアドバイスする。

泣いてスッキリしても、目を腫らした状態で翌日出社するのは避けたい。泣くときには目をこすらないようにすることが重要だ。目を腫らしてしまったときは、熱い蒸しタオルと冷たいタオルを交互にまぶたにあてると良い。

西新宿のプラザクリニックの出村さんは「男性でも泣くのを『恥ずかしい』と思わず、泣きたいときには泣いた方が良い。我慢するのは健康にも悪い」と指摘する。ただ、周囲の迷惑になるような泣き方はくれぐれも避けよう。




"泣きの達人"がすすめる10冊

純愛で泣く
  佐野洋子「100万回生きたねこ」(講談社)
100万回生きたネコが白いめすネコと出会って初めて愛を知る
  クァク・ジェヨン「ラブストーリー」(日本テレビ放送網)
内気な女子大生が35年前の母の日記や手紙を見つけ、母のかなわなかった初恋物語に助けられる
友情で泣く
  ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
「たったひとつの冴えたやりかた」
(ハヤカワ文庫SF)
宇宙に飛び出した16歳の少女とその頭の中に住みついたエイリアンの友情物語。
  小川洋子「博士の愛した数式」(新潮社)
80分しか記憶を持てずに、数字にしか興味がない「博士」がその家政婦の息子との交流で心を開いていく物語
時のはかなさで泣く
  ケン・グルムウッド「リプレイ」(新潮文庫)
43歳になると死亡し、18歳に逆戻りするという人生を繰り返す男性の物語
  フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」(岩波少年文庫)
少年トムが不思議な庭で出会った少女は自分より早く年齢を重ねて、おばあさんになる
戦争物語で泣く
  カート・ヴォネガット「母なる夜」(白水Uブックス)
歴史に翻弄される一人の男の人生を通して第二次世界大戦の中の世界を描く
  土家由岐雄「かわいそうなぞう」(金の星社)
戦争で殺されるゾウの物語を描いた絵本
闘病物語で泣く
  帚木蓬生「閉鎖病棟」(新潮文庫)
精神科病棟で繰り広げられる患者たちのストーリー
  大崎善生「聖の青春」(講談社文庫)
腎臓病と闘い、29年間の短い生涯を駆け抜けた将棋棋士・村山聖の物語
※堀越英美さんによるリスト

2004.7.3 日本経済新聞