長い距離を飛行機で移動すると起こりやすいのが時差ボケ。さらに最近は、いわゆる「エコノミークラス症候群」も心配だ。それぞれの対策を紹介しよう。 |
時差ボケは個人差があるが、夜眠れない、日中眠気に襲われるといって睡眠覚せい障害が大半。一般に日本との時差が5時間以上ある地域に、ジェット機などで高速で移動すると出る。時差があっても客船などの旅では起きない。
太田睡眠科学センター(川崎市)の佐々木三男所長は「生物的な体内時計の時間と実際の生活時間の急激なずれが原因」と説明する。体内時計が現地時間に合わせようとする過程が、時差ボケとして体感される。体内時計が現地に合わせるスピードは、ハワイ・西海岸で1日1時間程度。高齢者ほど適応は遅い。
欧州など西方向は比較的楽だが、ハワイや米西海岸など東方向はきついとされる。欧州は日本を昼に出発して現地の夕方に着く便が多い。日本では午前零時ごろ。夜更かしする感覚だが、寝付きはいい。米西海岸だと時差は夏時間で16時間。日本の午後2時過ぎくらいに眠ることになり、寝付きは悪く、朝目覚めにくい。
対策は方面により変わってくる。日本航空の国際便客室乗務員、坂本和美さんは、欧州の時差ボケ対策として、現地に着いたら夕食を省くか軽くする。「欧州に到着する夕方は日本では深夜。体が眠っているので無理しない」
ハワイは日本を夜出発、現地の早朝に到着する便が多い。「到着したらお風呂に入ってすぐ1、2時間眠る。そのまま寝ると夜眠れなくなるので、頑張って起きて活動する」。寝付きをよくするためには、半身浴をしたりアロマエッセンスを枕に垂らすなどリラックスを心がけている。
日本航空健康管理センターの大越裕文主席医師は「到着日は、無理なスケジュールを組まないのが基本。ハワイでは日本時間の夜にあたる午前中に仮眠するのはいい。香りや音楽は副交感神経を働かせ、良好な睡眠に入るのに有効」と評価する。
一方、海外旅行専門店「JTBトラベルデザイナー新宿」(東京・新宿)の石井久美さんは、早朝ハワイに着いたら、よく日に当たる。
佐々木所長は「目の奥にある視交叉(こうさ)上核は、体内時計と言われている。目覚めたとき、目から日光が入ると、体内時計が前に進んで早寝早起きになる。ハワイや米西海岸に行く場合にお薦め」と話す。
石井さんは、どの方面でも、飛行機に乗ったらすぐに目的地の時間に時計を合わせ、目的地の時間で起きて眠る。「これも体内時計の調整に役立つ」(佐々木所長)
このほか、日本旅行医学会の専務理事、篠塚規医師は「時差ボケで事故を起こす人が多い。着いた当日はレンタカーの運転はやめること」と注意する。現地でどうしても眠れない人は事前に、内科や精神科で超短時間作用型の睡眠薬を処方してもらう手もある。
帰国後の突然死が話題になった「エコノミークラス症候群」は怖い。長時間足を動かさないと、ふくらはぎの筋肉の中の静脈に血栓(血の塊)ができる。この血栓が肺に移動することで起きる。座席の種類は関係なく、長距離バスでもなると言われ、最近は「ロングフライト血栓症」「旅行者血栓症」と呼ぶ。特に手術や出産をしたばかりで血が固まりやすい人や、けがをして静脈の血管の内側に傷のある人は要注意だ。
予防法として、篠塚医師は、機内では水を飲んでトイレに行くように促す。「機内の湿度はサハラ砂漠並み。血栓症は乾燥も影響する。水分の補充もでき、適度な運動になる」
一方、大越医師は、座席に座ったままできる運動を勧める。つま先を立ててかかとを上げ、次にかかとを床に付けてつま先を上げる運動を繰り返す。「ふくらはぎを手で軽くもむのもお薦め」
「飛行機の長時間移動から2週間は要注意」(篠塚医師)。足に血栓ができると痛みとはれがある。不安な人は循環器科か血管外科のある病院で診察を受けよう。
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