少しずつ通利すべし

昔も苦しむ人が多かったようなのが便秘。貝原益軒も『養生訓』(岩波文庫)で「常に大便秘結する人は、毎日厠(かわや)にのぼり、(中略)少しづつ通利すべし」と書いている。
現代は食物繊維の摂取量が減り、運動量も格段に少なくなり、便秘に悩む人は昔以上に多いと思われる。

便秘は3日以上排便がなく、不快な自覚症状があって、日常生活に支障がある場合を指す。女性に多いが、男女とも年齢とともに増える。65歳以上では女性の81.5%、男性の53.2%が悩んでいる。

便秘が長く続いたり、便が細くなったりする場合には大腸がんも疑わなければならない。特に血便は大腸がんの症状として重要だ。血液が混じっていないかを調べて、陽性となれば大腸の造影検査や内視鏡検査を受ける。

大腸がんは日本人で急増している。毎年約6万人が新たに診断されている。動物性脂肪やたんぱく質の取り過ぎが原因とされ、特に赤身肉の摂取が多いとなりやすいといわれている。肥満やアルコールの飲み過ぎもよくない。

便秘の予防にはまず食物繊維を十分に取ること。食物繊維は腸の動きをよくして排便を助ける。益軒が書いているようにトイレに行く習慣をつけることも重要である。朝あわただしく過ごしている間に便意を我慢してしまい、便秘となることが多い。毎日朝食を必ず食べ、便意がない場合でも、朝食後にはトイレに行くようにする。運動を心がけることも大事だ。

香辛料を上手に使った料理や酢の物などは腸管に刺激を与え、便秘解消に効果的だ。便を硬くしないために水分を十分飲むこと。朝起きてからコップ1杯の冷水を飲むのも排便を促すのによい。

どうしても解消できない場合には下剤を使うことになる。水分の吸収を抑えて腸の内容物を多くする膨張下剤と、腸の粘膜を刺激して腸管の働きを促進させる刺激性下剤などがある。だが、下剤を使わなければならないようでは問題で、これに頼りすぎないようにしたい。生活習慣を改善し規則正しい生活で便秘を解消するように努めよう。
(国立長寿医療センター疫学研究部長 下方 浩史)
2004.9.12 日本経済新聞