高脂血症、高血圧、糖尿病の三大生活習慣病は、自覚症状がほとんどないままに心筋梗塞(こうそく)や脳卒中などの致死的な病気を引き起こすため、サイレントキラーとも呼ばれます。先月東京・有明の東京ビッグサイトで開催された「からだ博」(主催/健康と医療フォーラム実行委員会、日本経済新聞社、NHK)ではからだ想いシンポジウム「気がついたら、あなたも予備軍・生活習慣病を知る」(協賛/三共)を実施、生活習慣病から身を守るためには何が必要かを学びました。 |
基調講演
生活習慣病を知る
愛媛大学医学部第二内科教授 檜垣實男氏
高脂血症、高血圧、糖尿病 複数が重なるとさらに危険
高脂血症、高血圧、糖尿病は三大生活習慣病と呼ばれ、共通する2つの特色を持っています。
1つは、いずれも自覚症状がほとんどないまま進行し、動脈硬化を促進させて、さまざまな血管合併症を引き起こすことです。心筋梗塞や狭心症など日本人の死因の第二位を占める心臓病、脳梗塞や脳出血など第三位を占める脳卒中が代表的です。
2つ目は、この3つの生活習慣病は同じ人に重なりやすいことです。マルチプルリスクファクターといって、1つより2つ、2つより3つと、重なる病気が増えるにつれて、血管合併症のリスクは加速度的に高まってしまいます。
まず環境因子を除去
三大生活習慣病で患者数が最も多いのは高血圧で、約3千5百万人と推定されています。高血圧の診断基準は最高血圧が140mmHg以上、または最低血圧が90mmHg以上で、男性は加齢とともに直線的に患者数が増えますが、女性は更年期を過ぎると急増し、70代以上では7割前後の人が高血圧になります。
高血圧には他の病気などが原因で起こる二次性高血圧もありますが、一般に高血圧というと患者全体の90%以上を占める本態性高血圧を指します。生活習慣病といわれるのもこの本態性高血圧で、塩分の過剰摂取、肥満、運動不足、大量の飲酒、ストレスなどが大きく影響します。
本態性高血圧の発症した環境因子のほかに、遺伝的因子も大きくかかわっています。高血圧に関係する遺伝子は20数種類が明らかになっていますが、その中でも黒幕と考えられているのはAGT(アンジオテンシノーゲン)/T235多型と呼ぶ遺伝子です。
私たちの体には、塩分と水を体内に保持するためのレニン・アンジオテンシン系というホルモンがあります。ところがAGT/T235多型遺伝子には、このホルモンを必要以上に増やしてしまう作用があり、その結果、体内に塩分と水がたまり過ぎて、血圧が上がりやすくなるのです。
日本人は約8割がAGT/T235多型の遺伝子を持っています。しかし、この遺伝子があるからといって必ず高血圧になるわけではありません。こうした遺伝的因子に、先ほどいった環境因子が加わって、複合的に影響し合うことによって発症するのです。
従って高血圧の治療では、まず環境因子を除去することが大切です。喫煙は高血圧の直接的な原因ではありませんが、動脈硬化の重要な危険因子です。高血圧治療の最終目標が動脈硬化による血管合併症の予防だということを考えると、禁煙はぜひとも必要です。
家庭用血圧計を使って血圧を自己管理することも大切です。血圧は時間帯、運動や食事の前後などで変化しますが、特に注意が必要なのは起床後の血圧が高い早朝高血圧です。心筋梗塞や脳卒中などは午前中に発症する例が多いからです。自宅での測定結果をきちんと記録し、主治医に見せて指導を受けてください。
薬物療法の併用も
環境因子を除いても血圧が正常にならない場合は薬物療法を併用します。降圧薬にはレニン・アンジオテンシン系阻害薬、カルシウム括抗(きっこう)薬、βー遮断薬、利尿薬などがありますが、どの薬を使うかは体質や他の病気の有無など患者さんのバックグラウンドを総合的に考えた上で決定します。
高脂血症、糖尿病の治療法も基本的には高血圧と同じです。食事療法と運動療法で自己管理に努め、改善しない場合は薬物療法を併用します。
高脂血症のうち高コレステロール血症ではスタチン系薬が第一選択薬。糖尿病では経口血糖降下薬をまず用い、効果が不十分ならインスリン療法を始めます。
前述のように、生活習慣病は遺伝的因子に環境因子が加わって発症する多因子病です。従って発症と進行を抑えるには不適切な生活習慣を改善すること。また自覚症状がほとんどないので、年に1回は定期的に健康診断を受け、自分の健康状態をよく知ることが何よりも大切です。
講演
食生活を見直そう
辻学園栄養専門学校教授管理栄養士 加福文子氏
脂質は賢く取る工夫を 食物繊維で吸収も抑制
日本人の食生活で気になるのは、脂質の摂取量がかなり増えていることです。脂質は体に欠かせない栄養素ですが、高エネルギーなので、とりすぎると肥満や高脂血症などさまざまな生活習慣病の引き金になります。その方に適した量を賢く摂取したいものです。
次に脂質で注意したいことは、脂質を構成する脂肪酸の種類です。魚以外の動物性食品に多く含まれる飽和脂肪酸は血液中のコレステロールを増やすのに対し、オレイン酸には余分なコレステロールを減らす働きがあります。
リノール酸、青魚に多いDHA(ドコサヘキサエン酸)やIPA(イコサペンタエン酸)などの多価不飽和脂肪酸は、コレステロールのほかに中性脂肪も減らします。ただ、不飽和脂肪酸も、取り過ぎると善玉コレステロールも一緒に減らし、エネルギー過剰にもなるので注意しましょう。
飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取バランスは3対4対3が望ましいとされていますが、食品にはこれらの脂肪酸がそれぞれ異なった割合で含まれていることが多く、比率では分かりにくいと思います。肉料理中心の人は、まずは回数を減らし、その代わりに魚料理を増やせば、この比率に近づきます。
肉料理では素材選びも大切です。牛肉100グラム中の脂質はバラ肉で42.6グラムですが、脂身なしのもも肉では9.9グラムに減ります。豚肉も同様に34.6グラムが6.0グラムになります。バラ肉を使うときは、この点を考えて量を加減してください。
次は調理方法です。揚げる、焼く、煮る、ゆでる、炒(いた)めるの中で、脂質の摂取量が最も多くなるのは、衣が食用油を吸う揚げ物です。従って揚げ物を作るときは、衣の使用量をできるだけ少なくすること。薄くつけるのはもちろん、材料もあまり小さく切り過ぎないのがコツです。
脂質は取り過ぎないことだけでなく、吸収を抑えることも大切です。そのためには食物繊維を十分に摂取すること。食物繊維には余分なコレステロールや塩分の排せつを促し、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐ効果もあるので、三大生活習慣病の予防にも役立ちます。
食物繊維の1日の目標量は25グラム。ご飯、野菜、大豆製品、海藻やキノコ類に多く含まれています。野菜は1日350グラムを目標に、特に緑黄色野菜には、日本人に不足しているカルシウム、活性酸素をなくす抗酸化成分も豊富ですから、不足しないように摂取しましょう。
パネル討論
あなたは大丈夫? 生活習慣病と日ごろのこころがけ
〈パネリスト〉
日本ウオーキング協会副会長 泉 嗣彦氏
タレント 大桃美代子氏 加福文子氏 檜垣實男氏
〈司会〉
アナウンサー 好本 惠氏
カルシウム不足の解消が特に大切 日常生活で1日に3千歩増やす
好本 このパネル討論では食事と運動の大切さを、前半では大桃美代子さんの日常を参考にしながら、後半では会場から事前にいただいている質問にお答えする形で考えます。まず、大桃さん、ご自分では正しい生活習慣ということを意識している方だと思われますか。
毎日の食事と運動が基本 あまり構えず継続を
大桃 かなり気を使っています。毎週月曜から金曜まで、朝5時半に始まる「ズームインスーパー」というテレビ番組に出ていることもあり、いつも健康な状態を保っておくのがプロとしての私の仕事の1つと考えていますから。
好本 実はここに大桃さんの3日間の食事メニューがあります。加福先生、いかがでしょう。
加福 全般的に食品数が少ないです。1日30品目を目標に、できるだけ多種類の食品を取ることが栄養バランスをよくする秘けつです。特に足りていないのはご飯、魚、野菜です。朝食では特に炭水化物が不足していますが、炭水化物の供給源であるご飯やパンを食べないとブドウ糖が不足し、脳の働きが悪くなります。逆に、メカブ、納豆、ジャコのみそ汁を毎朝欠かさないのはいい点です。
大桃 メカブのみそ汁が体にいいという話を聞いて、じゃあ大好きな納豆とカルシウムをとるためにジャコも入れたらもっといいだろうと考えて作ったメニューです。毎朝、どんぶりに一杯飲んでいます。
加福 メカブは水溶性食物繊維やカルシウムが豊富で、納豆、ジャコなどを合わせると朝食でカルシウムが100ミリグラム以上取れています。ただカルシウムの1日の所要量は600ミリグラムですから、牛乳やヨーグルトなどのカルシウム源を加えるとさらによくなります。
好本 次に、医師であり日本ウオーキング協会の副会長でもある泉先生に、運動について伺います。よく、生活習慣病の急増は歩かなくなったことが一因だと聞きますが、いかがでしょう。
泉 私はふだん人間ドックで仕事をしていますが、たくさんの受診者を診てきて、そういう実感を強く持っています。20代、30代で過食に陥り、40代、50代で歩かなくなって、運動不足に陥る。それで、最初に病気として表れるのが肥満、特に内臓脂肪が増えてきます。次に、血糖をコントロールするインスリンの働きが悪くなります。そうすると、すい臓はインスリンをたくさん分泌するので、血液中のインスリン量が必要以上に増えて高インスリン血症になり、三大生活習慣病などの発症につながってくるわけです。
好本 ウオーキングがそういう状態の改善に効果があるのはなぜでしょうか。
泉 ウオーキングを継続的に行うと大たい筋などの脚部の筋肉が丈夫になり、質も変わってきます。毛細血管が発達して血流がよくなり、筋肉中の酵素が活性化する。その結果、血糖の取り込みが増し、インスリンの働きもよくなります。エネルギーをたくさん消費することで、もちろん内蔵脂肪も減ってきます。
好本 生活習慣病にかかってしまった人にも効果があるのでしょうか。
泉 あります。1日1万歩をめどに、1年間ほどウオーキングを続けたら、生活習慣病、それもいくつか持っていた生活習慣病がすべて治ってしまった、あるいは改善してしまったという症例をいくつも見てきています。
好本 ウオーキングを3日坊主にならず長く続けるコツはありますか。
泉 あまり構えて考えないことです。1日1万歩というと大変だなと思うかもしれませんが、日本人は毎日の生活の中で平均7千歩ほど歩いています。あと3千歩増やせばいい。そのために私はライフスタイルウオーキングという考え方を提唱しています。通勤や買い物などではなるべく歩きましょう、エスカレーターやエレベーターに頼らず階段を使いましょうということです。また趣味と結び付けたり、自然を感じる場所を歩く、あるいはウオーキング大会に参加したり、家族や友人と一緒に歩くようにすると長続きします。
好本 大桃さんに、食事と同様に3日間、コンピュータ内臓型の歩数計を持っていただきました。データをご覧になっていかがでしょうか。
泉 とてもいいと思います。元気にスタスタ歩いていらっしゃることがよく分かります。歩行時間も多いし、歩行スピードも速いですね。歩いたことによる消費エネルギーは日によってばらつきがありますが、トータルでは十分です。
大桃 最近の歩数計はよくできていますね。1週間の歩数や消費エネルギー量などもすべて分かるので、今日はちょっと足りないからもう少し歩こうとか、動機づけになります。
リスク高まる閉経後 定期的な健診で 健康状態をチェック
好本 さて、ここからは会場からの生活習慣病に関するご質問に、いくつかお答えいただきたいと思います。まず40代の女性の方です。「年代別に気をつけるポイントは」ということですが。
檜垣 生活習慣病が発症するまでには長い準備期間があって、早い人は10代から変化が起き始めています。ですから若いうちから正しい生活習慣を身に付けること。特に女性は閉経後、コレステロールを下げたり、血管の若さを保ったり、体を守るいろいろな働きをするエストロゲンという女性ホルモンが分泌されなくなります。更年期にさしかかったら年に一回は健康診断を受けて、健康状態を確認することが大切です。
好本 次は「健康のためには朝食は取るべきでしょうか。いい、悪いと全く別のことがいわれていますが」という質問です。
泉 取る方がいいと思います。理由は、1日の摂取エネルギー量が同じなら、食事の回数が少ないほどインスリンの分泌量が増えてしまうからです。特に高齢の方で食が細っている場合には、1回当たりの食事量を減らして回数を増やすのがいいと思います。
加福 私も同じ意見です。朝食を取らない子供たちは栄養面の問題だけでなく、集中力や気力がない子、イライラする子が多いというデータもあります。
好本 続いて健康食品に関しての質問です。「医療現場では健康食品をどう評価していますか」ということですが。
大桃 私もビタミンCとEの錠剤を毎日飲んでいますが、食事との食べ合わせ、薬との飲み合わせが気になっています。
檜垣 薬との飲み合わせはあまり心配しなくてもいいと思いますが、ハーブ系の健康食品の一部には薬の効果を弱めてしまうものがあります。常用している場合には医師や薬剤師に相談して下さい。
泉 日本人の食事で足りない栄養素はカルシウムと食物繊維ぐらいですし、やはり毎日の食事をきちんと取ることが基本です。それでも何か足りない気がするという方は、医師に相談されるのがいいと思います。健康食品はあくまでも食事の補助であって、それだけで健康になれるわけではありません。
好本 ありがとうございました。生活習慣病から身を守るには、まさに正しい生活習慣が大切ということを改めて認識しました。会場の皆さんも、今日のお話を明日からの生活にぜひ生かしていただければと思います。
大桃美代子さんの3日間の食事メニュー
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朝食
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昼食
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夕食
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1日目 |
メカブ・納豆・ジャコのみそ汁/トマト |
プチトマト1パック/モズク酢・/焼きそば/リンゴ1個 |
焼き鳥/サラダ/酒少々 |
2日目 |
メカブ・納豆・ジャコのみそ汁 |
カレーパン/リンゴ1個 マンゴージュース |
スパゲティボンゴレ/ブロッコリー |
3日目 |
メカブ・納豆・ジャコのみそ汁/トマト |
ラーメン |
フォアグラのパテ/豚ソテー/エビいため/ワイン3杯/クラムチャウダー |
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