ノンシュガー、カロリーゼロ、無脂肪乳……。こんな表示をみて食品を買う人は多い。だが、ゼロ表示を文字通りゼロと受け止めると失敗しかねない。法令の定めと消費者の認識には深い溝がある。 |
質問。3つの表示の飲料がある。「ノンカロリー」「シュガーレス」「砂糖不使用」。糖尿病予備軍や太り気味で「エネルギー量が気になって」という人は、どれを選ぶといいのだろうか。「えっ、3つとも糖分が入っていないはずだって?」
確かにどれもカロリーや糖分が入っていないようにみえるが、実際は完全にゼロでなくてもこう表示できる。しかも、表示対象によって扱いが異なるから、ややこしい。
「不使用」にも糖分
表示方法は法律で決まっている。健康増進法の中の栄養表示基準だ。健康に重大な被害を与えるような表示違反があると、法律に基づき、勧告や改善命令などを経て懲役や罰金も科される。
「シュガーレス」の場合をみよう。砂糖や果糖、乳糖といった糖類が食品100グラム(飲料なら100ミリリットル)に0.5グラム未満しか含まれていなければこう表示できる。「ノンシュガー」「無糖」も同じ意味だ。食品100グラムあたりの糖類が5グラム(飲料の場合2.5グラム)以下なら「糖分控えめ」「糖分ダイエット」「低糖」などという表現になる。
これに対し、「砂糖不使用」は単に砂糖を使っていないという意味。果糖、乳糖を含んでいてもこの表示は可能だ。容器や袋に印刷されている栄養成分表示を見ると、砂糖不使用でも糖類が100グラムあたり10グラムなどと、無糖どころか低糖ですらない商品もあり得る。
「ノンカロリー」「カロリーゼロ」は食品100グラム(飲料100ミリリットル)あたりの熱量が5キロカロリー未満であるということ。例えば糖類ではなくキシリトール、ラクチトールといった難消化性糖質という甘味料を使った食品がある。砂糖が1グラムあたり4キロカロリーなのに対し、キシリトールは3キロカロリー、ラクチトールは2キロカロリー。こうした甘味料を使って500ミリリットルのペットボトルで25キロカロリー未満に抑えれば甘くてもノンカロリーだ。
冒頭の質問に戻れば、カロリーを抑えたい人は、ノンカロリーと表示された商品を選ぶのが無難ということになる。
では、なぜゼロでないのにゼロと表示できるのか。これは「成分を検出する際の誤差を考慮したため」(厚生労働省)。国際基準も同じ考えに基づく。「1リットルがぶ飲みして49キロカロリーになっても、成人の1日の摂取量2500キロカロリーと比べ問題にならない」(同)というが、熱量や糖類を気にする人は栄養成分表示の熱量や糖類の分量、原材料表示の甘味料の有無などをチェックする必要がある。
消費問題研究所代表の垣田達哉さんは「最近目に付くのが無添加という表現。砂糖無添加といってもハチミツをたっぷり使っているかもしれない」と指摘する。イメージ上のゼロと法律上のゼロの「2つのゼロの存在に違和感を持つ人が多いはず」と語る。
広いゼロの範囲
遺伝子組み換え食品にも「2つのゼロ」がある。米国産の大豆やトウモロコシなどを原料としたものだ。
国民生活センターは8月、市販の豆腐を対象に遺伝子組み換え大豆の遺伝子の有無を検証した。全29銘柄に「遺伝子組み換え不使用」という表示があったが、実際には約6割の18銘柄から遺伝子組み換え大豆が検出された。
市民バイオテクノロジー情報室の天笠啓祐さんは「テスト結果を見た消費者から『どうしたら安心できるの』などと、かなりの相談電話が寄せられた」と話す。
日本農林規格(JAS)法では、意図せずに組み換え大豆が混入した場合、5%以下なら「遺伝子組み換えでない」と表示できる。組み換えと非組み換えの大豆が大量に流通する現状では、運搬中の混入を防ぎきれないためだ。組み換えを検出した18銘柄について、自治体が調べたところ、いずれも法令違反にならない程度の混入だったという。
「韓国で認められるのは混入率3%まで、欧州は0.9%。日本のゼロの範囲が広いこともイメージとの差を広げる要因」と天笠さんは語る。
こうした落差を縮める動きもある。
飲酒の基準、罰則を厳しくした道交法の改正で昨年大きく消費量を伸ばした「ノンアルコールビール」。最近、店頭からこの言葉が消えつつある。酒税法はアルコール度数1度(1%)以上の飲料を酒と定めているため、アルコール分0.5%では酒ではない。これをメーカー各社は当初、ノンアルコールビールと銘打って売り出した。
しかし、独立行政法人日本病院機構久里浜アルコール依存症センターの樋口進副院長は「アルコール分0.9%の飲料を、体重の軽い女性や酒に弱い人が立て続けに飲めば、酒気帯びの反応がでる可能性がある」と指摘する。
公正取引委員会は昨年7月、メーカーや販売業者の団体にノンアルコールという表示をやめるよう求めた。そこで国内メーカーは「ノン」をやめ、「ビールテイスト飲料」などに変更。販売も酒売り場でするようになっている。
消費科学連合会の犬伏由利子副会長は「わずかでも入っているようならゼロとは呼ばないよう、法律の基準と言葉のイメージのギャップを統一すべきだ」と指摘。ゼロと誤解されないような用語をつくり、その意味がきちんと理解できるよう、子供のころから表示教育をしようと提案する。
表示とは、ほとんどの消費者が理解できてこそのもの。BSE(牛海綿状脳症)や偽装表示などの問題で関心が高まっている今こそ、わかりやすさにもっと注意を払うべきではないか。
(生活情報部 田中映光)
食品の表示基準
表 示
|
食品100g(ml)あたりの含有量
|
ノンカロリー、カロリーゼロ |
熱量5kcal未満 |
カロリーひかえめ、カロリーオフ |
同40(飲料は20)kcal |
無脂肪 |
脂質0.5g未満 |
低脂肪 |
同3(飲料は1.5)g以下 |
ノンコレステロール |
コレステロール5mg未満 |
低コレステロール |
同20(飲料は10)mg以下 |
無糖、ノンシュガー、シュガーレス |
糖類0.5g未満 |
低糖、糖分控えめ |
同5(飲料は2.5)g以下 |
無塩 |
ナトリウム5mg未満 |
減塩、塩分控えめ |
同120mg以下 |
|
|