医の本来の文字は「醫」と書く。下半分の「酉」は酒の意味であり、酒と医療との関係を示している。酒を飲むと食欲が出る。料理の味を良くする。中枢神経を適度にマヒさせて気分を壮快にし、ストレスを解消する。さらに血液の循環を良くして体を温め、睡眠を促し、明日へのスタミナつくりに寄与してくれる。最近の研究によると、善玉コレステロールを増やして動脈硬化を予防するという。といっても、酒を適量飲んだ場合だ。

「酒は百薬の長」という言葉は中国の歴史書「漢書・食貨志」に出てくる。中国ではすでに夏王朝(紀元前2100年)のころに酒があった。生薬の成分で水に溶けない部分を、アルコールで抽出、病気の予防や治療に効果を上げたことから薬酒としても使われていた。この時代に造られた酒は、黄酒と呼ばれる醸造酒であり、今の老酒(ラオチュー)のようなものだ。

老酒は主にもち米と麦こうじを原料に3年以上貯蔵して熟成させると、香りが良くコクのある酒ができる。浙江省紹興市で作る銘酒を紹興酒と呼ぶ。アルコール分は日本酒と同じ16−18度。長く熟成したものを示すのに、「花彫」とか古いという意味の「陳年」と表示しているものもある。

日本で老酒を注文すると砂糖が出てくるが、かつて味が悪いものが多かったので、うまみをつけるために砂糖を使う習慣が生まれたらしい。酒好きの人は、通ぶってこんな飲み方をまねるよりも、中国本来の「酒は料理を食べながら飲む」という常識をまねた方が良い。飲みながら食べればアルコールの吸収を抑え、2日酔いが避けられる。
(新宿医院院長  新居 裕久)
2004.12.11 日本経済新聞