免疫機能や治癒力増す
しなやかに
場所選ばず高齢者も楽々
無意識のうちに体に余分な力を入れている現代人。それが、さまざまな病気や機能障害にもつながっている。そこで、心と体にとって、ゆるむことが大切と、最近注目される「ゆる体操」を紹介しよう。
「腰をモゾモゾ、手首をプラプラ、つま先をクルクル」――15人ほどの中高年が目を閉じ気持ちよさそうに体をゆらしている。ここは三重県の南端に近い御浜町。土曜日の午後、公民館に集まった住民が、声を出しながら脱力状態で体をくねらす「ゆる体操」に取組んでいる。
三重県南部の紀南地方は、全国でも高齢化率が高く、糖尿病や高血圧などの生活習慣病に悩む人が多い。このため、熊野市をはじめとする一市四町村(人工約4万6千人)で「紀南健康長寿推進協議会」を設立。健康長寿日本一を目指し、「げんき夢プラン」を立ち上げた。「場所を選ばず、道具も使わず、年齢や体力にも関係なく、いつでもどこでも、寝ても立っても座ってもできる健康体操」(杉谷俊明・紀南健康協事務局長)として、ゆる体操を採り入れた。
一流選手も実践
ゆる体操はもともと、運動科学総合研究所の高岡英夫所長が、東大大学病院で「身体意識」の研究をし、オリンピック選手などを指導しながら考案したものである。
「メジャーリーグで活躍するイチローや水泳の北島康介、ゴルフのタイガー・ウッズなどの動きよく見ると、非常にしなやかで余分な力みがない。彼らは、十分に実力が発揮できるよう、自由に心身をゆるめている」という。
そして、スポーツ選手の能力向上だけでなく、一般の人でも、簡単な動作で効率よく体をゆるめ、健康を維持する体操として開発した。では、体をゆるめることが、なぜ健康づくりにつながるのか。その理由を、高岡所長は建造物にたとえて説明する。
地震国の日本で、法隆寺や薬師寺の塔が千年以上も倒壊せずに現存するのはなぜか。中心の柱以外は各パーツがゆるやかに連結し、地震が起きても衝撃を吸収、分散してしまう「柔構造」になっているからだ。これに対し「剛構造」の建物は、衝撃をまともに受けて崩壊しやすいという。
人間の体は、206個の骨と、それらを連結する関節、周囲をおおう筋肉、脂肪、皮膚などで構成されている。柔構造の人は、動きやすい関節としなやかな筋肉を持ち、体を巧みにゆるめることができ、運動能力もアップさせるというわけだ。
パソコンに長時間向かっていると、肩や首、腰に力が入る。過剰な力が入った部分には、こりが生じ、血液や体液の流れが悪くなる。それが免疫機能や自然治癒力の衰えにつながり、体の冷えやむくみ、慢性腰痛、不眠といった不調のもとになる。また、最近の働く女性たちの骨格のゆがみを助長し、下半身太りの原因ともなっている。
肥満改善にも効果
ゆる体操には、立って行う「立ちゆる」、イスに座ってやる「イスゆる」、寝ながら簡単ににできる「寝ゆる」がある。場所を問わず、好きな時間にやってよい。「モゾモゾ」「プラプラ」など部位に合った言葉をつぶやきながら行えば、一段と効果が高まる「擬態語効果」もあるといわれる。
体の深部にあって鍛えにくいものとして腸腰筋(ちょうようきん)がある。ダイエットと関係し、ちかごろ注目されている筋肉だ。たとえば、寝ゆる体操で太ももを動かすと、腰椎(ようつい)と太ももをつなぐこの腸腰筋を使うことになり、中年太りの体形を防ぎ、引き締まった体をつくるのに役立つという。
紀南健康協では、岐阜大学医学部の協力を得て、80人の住民を対象に、ゆる体操による肥満改善プログラムの効果測定を行った。その結果、2カ月間で平均2.4キロの体重減少が認められ、体脂肪率や総コレステロール値も落ちるなどのダイエット効果が表れたそうだ。
(編集委員 野村義博)
簡単にできる寝ゆる体操3パターン
(硬めのふとん、じゅうたん、たたみ、薄いマットの上などで行う)
腰モゾモゾ体操
あおむけに寝て、両手両足を軽く開く。腰を床に軽く押しつけながら、左右にモゾモゾと動かす。時間の目安は1−3分
すねプラプラ体操
あおむけに寝て、両ひざを60度くらいに立てる。左足のひざより少し上の太ももよりに右足をかける。右足のひざから下を上下にプラプラゆする。左右の足を替えて同様に行う。時間の目安は10−30秒ずつ
ひざコゾコゾ体操
あおむけに寝て、両ひざを60度くらいに立てる。左ひざに右足のふくらはぎをのせる。ふくらはぎを圧迫して気持ちいい場所を探しながら、コゾコゾと動かす。左右の足を替えて同様に行う。時間の目安は1分から好きなだけ
2005.1.29 日本経済新聞