無病長生は我にあり

貝原益軒は『養生訓』で「無病長生は我にあり、もとむれば得やすし」と書いている。健康長寿は求めれば得られるものだ。

健康長寿の秘けつはどこにあるのだろうか。都道府県別で平均寿命をみると、女性の日本一が沖縄。男性も1980年代に1位だったが、2000年度に26位まで転落した。男性の長寿トップは長野で、女性は3位。福井が男女ともに2位だ。

沖縄のような気候が温暖で、環境に恵まれた過ごしやすい場所に長生きの人が多いのはある程度理解できる。しかし、長野や福井は冬の寒さが厳しく雪もたくさん降る。また、山の多い地域でもある。このような厳しい環境の地域で寿命が長いのは、それなりの理由があるはずだ。

長野は平均寿命だけでなく健康寿命も長い。しかし、100歳を超える超高齢者が多いわけではない。老人医療費は、1999年度の統計だと全国で最も低く、トップの福岡よりも1人あたり年間36万円も少ない。医師の数も全国平均より少ない。

高齢者の就業率も高い。退職後に農作業に就く人も多く活動的だ。また、3世帯同居の割合や持ち家の割合が高く、離婚率も低いため大家族の中で高齢者が暮らしていける。在宅で療養を続ける高齢者も多い。さらに、病気の予防のための保健活動が盛んで、高齢者がバランスの取れた食事をとっている。「医療よりも予防」が実践されている。

一方、沖縄は中年男性の肥満が問題になっている。中年男性に占める肥満者の割合は全国平均の約2倍。欧米型の高たんぱく・高脂肪食が原因だ。このため、男性の平均寿命は全国平均よりも短くなってしまった。長野と並ぶ長寿県の福井では米類やイモ類の摂取が多く、最近の沖縄と対照的である。

健康長寿のためには運動、栄養、社会参画、家族関係、行政による保健活動などが重要であることがよくわかる。増え続ける老人医療費をおさえるには、長寿県から学ぶべきことも多いだろう。
(国立長寿医療センター疫学研究部長  下方 浩史)
2005.3.27 日本経済新聞