梅雨が明け、酷暑の季節がやって来る。亜熱帯化しているといわれる日本の夏。カッと日が照ると屋外と冷房の効いた室内の温度差や冷たいものの取り過ぎで起きる夏バテを防ぐ手段として、スパイス(香辛料)の効用が見直されている。弱り気味の体を中から温め体力を回復させる、というスパイスの効果的で手軽な取り方を探った。
今年の夏、街には「辛さ」や「スパイシー」をうたう外食レストランや加工食品の新商品があふれ、赤やオレンジの刺激的な色の看板が林立、スーパーの食品売り場でもカレー関連のコーナーが活気づいている。大手メーカーも「今年は辛みの強い商品が多い」(エスビー食品)という通り、最も辛いといわれる赤唐辛子のハバネロを使ったカレーが続々発売された。
カレーのルーやレトルトカレーには様々なスパイスが入っている。考えてみれば、熱い季節に体が熱くなるような食品を取るのは不思議な話。夏といえば、冷えたスイカや氷水、冷やしそうめんが定番のはずだが…。
「確かに、夏は本来、暑気あたりを防ぐために『涼』のもの、トウガンやウリ、スイカといったものを食べて体を冷やすのが基本でした」。食品と健康の関係に詳しい京都薬科大学の吉川雅之教授(生薬学)がこちらの疑問を裏付けてくれた。では、どうして暑い時期に辛いものがもてはやされるようになったのか。
吉川教授によると、「『涼』のものをよく食べたのはクーラーや冷えたビールがあまり普及していなかった時代の話」。今はそれだけでは体が冷えすぎてしまう。むしろ、適度に辛くて体を温める食品が胃腸など消化器系の機能を整え、新陳代謝をよくするので必要なのだという。
スパイスの辛みや香りの健康効果も次第に解明されてきている。吉川教授の最近の研究によると、トムヤムクンをはじめタイ料理などに使われるショウガ科のガランガルには抗アレルギー効果や胃粘膜の保護作用、抗炎症作用がある。実験ではいずれも市販の合成薬品より強い作用を示した。アユの塩焼きなどにタデ酢として使われるタデにも強い胃粘膜の保護作用が見つかったという。
夏特有の体力低下を乗り切るには、まず、食欲を増進させることが大事、と吉川教授は言う。同教授の話では、ほとんどのスパイスには胃の保護作用がある。さらに、冷房などで冷えて悪くなった血液の循環を改善するのにもスパイスが役立つという。
ただし、スパイスは大量に取ると副作用が生じることもある。しばらく前に、唐辛子に含まれる辛み成分のカプサイシンがダイエットに効果があると言われ、女性の間で大量に取るのが流行したが、吉川教授は、「そういう取り方は体によくない」と警告する。
スパイス料理の代表といえばカレーだが、「40歳を過ぎると意外に食べなくなる」と指摘するのはスパイスコーディネーター協会理事長の武政三男さん。原因はカレールーに入っている小麦粉やラードなど動物性脂肪。食後に胃がもたれたりげっぷが出るのがいやだという人が多い。
北海道が発祥で、最近、首都圏などでも流行しているスープカレーは「基本的に小麦粉やラードを使わないので、食べやすいところが受けている一因ではないか」。
では、家庭で手軽にスパイスを取るにはどうしたらいいだろう。飯塚律子ヘルスフーズ研究所を主宰する飯塚律子さんは最も手っ取り早い方法として、上質のカレー粉を使うことを勧める。
例えば、塩こしょうしたアジにカレー粉をたっぷりつけて、小麦粉かかたくり粉をまぶして焼く。レモンをたっぷり振りかければ、「たんぱく質にビタミン、スパイスを一緒に取れる」(飯塚さん)。しょうゆ味が定番の炊き込みご飯もニンジンやこんにゃく、鶏肉などの材料はそのままに、カレー粉を入れ、しょうゆは隠し味程度にすると、カレー釜飯になる。しょうゆを普通に使うより減塩になるというメリットもある。
冷ややっこやショウガじょうゆに使って余ることの多いショウガも?みそ汁にすって入れる?千切りにしてサラダに散らす?冷やした白玉粉にすりおろして入れる――といった使い方で手軽に取れる。普段の料理に身近なスパイスを加えることで「独特の色や香り、味が食欲を刺激」(飯塚さん)してくれそうだ。
(編集委員 大橋牧人)
スパイスを使った手軽な料理例 |
カレー風味の野菜煮込み
タマネギやキャベツ、セロリ、トマトにコンソメスープを加えてよく煮込む。最後にカレー粉を水で溶いて入れる。木綿豆腐や鶏肉のぶつ切りを加えても。隠し味にはしょうゆや白ワインを
カレー味のコーンクリームスープ
缶入りのクリームコーンを牛乳でのばして加熱し、そこへカレー粉を加えると甘いスープがピリッとする
ショウガ風味の肉野菜いため
ショウガを薄切りにして油でいため、香りを出してから野菜や肉を入れていためる
ジンジャー・ティー
紅茶にはちみつ、レモン汁とショウガ汁を入れる
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(飯塚率子さんのレシピより)
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