「ダイエット効果がある」として食物繊維の豊富な寒天がよく売れている。しかし、食物繊維が体にいいのは、便通をよくして老廃物を取り除き、いつも腸内をキレイに保ってくれるから。不足がちな現代人は、自覚がなくても腸が汚れ、体の不調につながっていることも多い。
下痢や便秘などおなかのトラブルを抱えていない人でも、食物繊維を3週間続けてとると体内へのビタミンCの吸収率が約3割高まる――。東京女子医科大学美容外科の大木理香講師らがこんなユニークな実験結果をまとめた。男女10人に7.5グラムの食物繊維を含む500ミリリットル入りの清涼飲料を1日1本、3週間飲み続けてもらったところ、ビタミンCの粉末を飲んだ後に吸収される効率が大幅に改善したという。
「食物繊維の摂取で腸内の環境が改善し、ビタミンCを吸収しやすくなった」と大木講師は説明する。おなかの異常に気付かなくても、腸が汚れてせっかく飲んだ栄養補助食品を吸収できない人がたくさんいることになる。大木講師は10項目の「ヨゴレ腸チェック表」(イラスト参照)を提案、当てはまる項目が多いほど食物繊維の欠乏による体調不良が表れている可能性があると指摘する。
「現代人の食事は栄養過多だが、食物繊維だけは驚くほど不足している」と食物繊維に詳しい大妻女子大学の池上幸江教授は警鐘を鳴らす。
食物繊維は体内で消化・吸収できない成分の総称。1970年代には糖質(炭水化物)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルに次ぐ「第6の栄養素」として注目された。2003年の国民健康・栄養調査によれば日本人1日の平均摂取量は14.3グラムで国が掲げる目標値(20−25グラム)の7割以下にとどまる。
池上教授の試算では戦後まもない1951年には平均23グラム摂取していたが、「主食の穀類が大麦などの雑穀から白米に置き換わるにつれて、年々減少していった」。
なぜ食物繊維が不足すると腸が汚れるのだろうか。
腸内環境に詳しい東京大学の光岡知足名誉教授は「食物繊維は便の水分を調節してかさを増し、正常な排便を促す。腸内の悪玉菌などが生み出す様々な毒素を吸着して排出する機能もある」と解説する。便が一定のリズムで排せつされれば悪玉菌が増えにくくなり、作られる毒素も減る。
逆に不足すると悪玉菌の毒素が増え、免疫力の低下や疲労感の増加、動脈硬化や大腸がんリスクを増大させる。
食物繊維が吸着するのは毒素だけではない。腸内に運ばれた糖質をからめとり、体内への吸収を遅らせる働きもある。血糖値の急激な上昇を抑える。血中コレステロール値を低下させる効果もある。
「過度な期待は禁物だが、糖尿病などを予防する働きはある」と池上教授は話す。
「体内の毒素を排出する手法が『デトックス(解毒)』と呼ばれることを踏まえ、食物繊維の解毒効果を『ファイバーデトックス』と呼ぶことにした」と光岡名誉教授。大木講師や池上教授らと食物繊維の効能を探る学術団体「ファイバーアカデミア」を設立し、ファイバーデトックスについてインターネットなどを通じて情報発信し、目標値からの不足分「あと6グラム」の摂取を勧める。
日常生活で食物繊維の摂取量を増やすには「主食の穀類から補うのが一番の近道。白米は100グラム当たり0.5グラムしか食物繊維がないが、大麦なら同9グラム含む。ごはんと大麦を1対1くらいで炊けば十分な量がとれる」と池上教授はアドバイスする。
パンも精白している小麦粉ではなく全粒粉を選ぶ。さらに切り干し大根やかんぴょうなど乾物類や豆類、海藻をバランスよく組み合わせるといい。野菜も生ではなく、加熱調理でとる方がより多くの食物繊維を摂取できる。
食品メーカー6社は「食物せんいプロジェクト」を発足、飲料やパン、菓子などに共通のロゴマークを記載。1日の不足分を補う6グラム以上の食物繊維を配合した商品を販売している。「食事からとるのが難しければ、こうした飲料や菓子を活用するのも一手」(光岡名誉教授)。
ところで寒天人気で注目されているダイエット効果は本当なのか。
池上教授は「1日20グラム前後とりつづけても劇的にやせる効果はない」とキッパリ。
「やせるには大量に食べ、満腹状態になって食事の量を減らすしかないが、栄養バランスが崩れるので避けるべきだ」と警告する。
食物繊維がヨゴレ腸を防ぐ |
「ヨゴレ腸」のチェック表
□便の色が焦げ茶から黒に近い
□おならや便がくさい
□口臭や体臭が気になる
□にきびや吹き出物がある
□肩がこりやすい
□おなかがぽっこり出ている、膨満感がある
□眠りが浅い、睡眠時間が短い
□食事の時間が不規則、抜くことがある
□外食が多い、ジャンクフードをよく食べる
□みそ汁、納豆を食べる習慣がない
6項目以上当てはまるようなら、食物繊維の不足による「ヨゴレ腸」の可能性
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目標は1日20〜25グラム
平均して不足する「あと6グラム」をとるには・・・
・大麦(押し麦)……63グラム
・大豆………………35グラム
・ごぼう……………105グラム
・ブロッコリー…136グラム
・干ししいたけ………15グラム
・生しいたけ……171グラム
・こんにゃく………272グラム
(5訂日本食品標準成分表による) |
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