高齢化がこのまま進むとアルツハイマー病など認知症患者が急増すると言われている。脳が鍛えられるというドリルやゲームが人気だが、最新の予防研究によれば、体をよく動かし、旅行や料理などの活動に励むと、ボケ防止につながりそうだという。
旅行や料理、園芸などのグループ活動やウオーキングで、認知症にならずに済むだろうか――。東京都老人総合研究所と世田谷区は昨秋、高齢者を対象に2002年から試験的に始めた認知症予防活動プログラムの科学的効果を検証し、公表した。
同プログラムでは、1日30分程度のウオーキングを週5日以上こなしてもらう。さらに週1回ペースで、旅行や料理、園芸やミニコミ誌作成など、グループ活動に参加しなければならない。
区民369人を対象に、認知機能を調べるテストを実施した。1年以上同プログラムに参加した人たちは、参加していない人たちに比べ、記憶力と注意力が改善していることがわかった。事前の検査で認知症になる可能性が大きかった人の方が、改善効果が顕著だった。
このプログラムを主導する矢冨直美・老人研主任研究員によると、認知症の前段階といえる「軽度認知障害(MCI)」になると、家族らも気づくような3つの変化が表れるという。
まず第一に記憶力の低下。特に、「昨日、本屋で車の雑誌を買った」など個人の体験に基づくエピソード記憶が衰える。
注意力の振り分けもうまくいかなくなる。認知症患者が歩きながらしゃべれなくなるのは、2つ以上のことが同時にできないから。車を運転する人だと、「ヒヤリ」とするミスが目立つようになる。
計画力も落ちる。段取りがものをいう料理や旅行などに影響がでてくる。長年家事を切り盛りしてきた女性だと、料理を作れても、ものすごく時間がかかってしまう。行ったこともない場所に時間通りにたどり着くのも難しい。
認知症を防ぐには、こうしたMCIの段階で現れる症状をどれだけ抑えるかがポイントになる。例えば、記憶力を保持するには、その日にあった出来事を人に話したり、日記をつけるようにして、思い出す努力をする。「(予防プログラムで)記憶力と注意力が改善できることがわかった意義は大きい」(矢冨主任研究員)
諏訪東京理科大の篠原菊紀・助教授も、「認知症は生活習慣病」との観点から、運動による予防効果を説く一人。日常生活にウオーキングを取り入れることが、高齢者の脳機能改善にむすびつくかどうか研究する。
長野県松本市の生涯教育プロジェクト「松本市熟年体育大学」でウオーキング講座を開催してきたが、ウオーキングが習慣として身に付くと、脳の前頭葉機能が良くなっていくことがわかってきた。
脳を鍛えるため篠原助教授が推奨する歩き方が、インターバル走法。2分間普通に歩いた後で、次の3分間は歩行ピッチを速める。その後、再び「普通」「全力」歩行を同じ時間繰り返す。トータルで歩く時間は、自分の体力によって決めればいいが、1日30分程度から始めて徐々に延ばしていく。
「脳の画像を詳しく調べると、やる気と意欲と関係する前頭葉内部の厚みが、ウオーキングで増すことが判明した」と篠原教授。運動に限らずちょっとがんばらないと達成できないような目標を設定し、意欲をかき立てることが、認知症予防には大事と見る。
アルツハイマー病に関する遺伝子はこれまで1つしか見つかっていない。老化とともに発症リスクが高くなり、80代を過ぎると患者数は急増する。運動以外にも食事に気をつけビタミンEやCなどをきちんと取ると、発症しにくいとの研究報告もある。
杏林大の鳥羽研二教授は、「どんな予防法でも効果を見るまで半年から1年はかかる。継続がとても大切」と言う。「生活習慣病の予防に王道なし」ということが認知症予防にもあてはまる。
(矢野寿彦)
認知症
大脳の神経細胞が広範囲にわたってダメージを受け、記憶や判断力などが著しく低下する。「人の名前が思い出せない」といった老化に伴う物忘れとは違い、普通の生活が送れなくなる。認知症の半分は、脳全体が萎縮していくアルツハイマー病によって起こる。この原因不明のアルツハイマー型も脳血管性と同じように、生活習慣病の代表でもある動脈硬化が発症リスクになると考えられている。
・朝、昨晩食べたものを詳しく思い出す
単なるメニューだけでなく、素材や調味料にも踏み込んで
・新聞記事から「の」を拾い出し、いくつあるか数える
内容を理解しながら同時並行に
・電話番号を覚え、逆から言う
音としてではなく、画像的に数字を思い描くように
・テレビにニュースを見ながら耳さわり
「あ」と聞こえたら右の耳、「き」と聞こえたら左の耳にさわる要領で
・好きな本ではなく、難しい本を読む
慣れ親しんだ分野でなく、未知の世界に挑む
・新しい料理にチャレンジする
作りなれたメニューでなく、本を見ながら
・日記や手紙を書く
寝る前にその日の出来事を思い出す。パソコンでなく手書きで
(注)篠原菊紀「ボケない脳をつくる」から抜粋
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