夏の疲れが残っているところに、朝晩の気温が下がり始めるこの時期は体調を崩しカゼを
引きやすい。季節の変わり目の健康管理に役立つのが、昔から利用されてきた梅干しだ。梅干しの漬け汁(梅酢)はうがいに使えるなど、用い方は様々だ。
昔から「番茶梅干し医者いらず」「梅はその日の難逃れ」などといわれ、梅の効能が経験則として語り継がれてきた。なぜ梅干しには疲れをたまりにくくし、カゼに対する抵抗力を高める働きがあるのか、最近の研究でメカニズムが解明されてきた。
梅の効能研究を行う和歌山県立医科大学の宇都宮洋才講師は、昔から知られる疲労回復効果について「クエン酸やリンゴ酸など梅に含まれる8種類の有機酸が働き、疲労の指標となる乳酸をたまりにくくするため」と説明する。
一方、梅干しがカゼに効くといわれる理由は、免疫力アップ作用があるためのようだ。菌類薬理研究所の伊藤均所長が青梅を煮詰めた梅肉エキスをマウスに経口投与して、免疫細胞の状態を観察したところ、梅肉エキスを投与しないマウスに比べて免疫細胞の一種、マクロファージやナチュラルキラー細胞が活性化することを確認した。活性化した免疫細胞は、体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃する。
梅干しの強力な抗菌作用も、病気の感染予防に働きそうだ。カゼやインフルエンザが悪化すると、様々な細菌感染を併発し、肺炎になるリスクが高まるが「梅に含まれる強力な抗菌成分シリンガレシノールが、こうした細菌感染を防ぐ」と宇都宮講師は話す。
実際、南高梅(なんこううめ)の産地である和歌山県みなべ町の人たちは、カゼ対策に梅干しや梅肉エキスを活用している。
ユニークなのが、梅干しを漬けた液である梅酢を使ったうがいだ。みなべ町では、梅酢を洗面所に常備し、外出から戻ると、7−8倍の水で薄めてうがいをする習慣があるという。「梅酢は梅干しと同様に殺菌効果が強い。10年ほど前から学校や幼稚園でもこの習慣を取り入れ始め、カゼ予防に効果を上げている」(みなべ町役場うめ課)
試してみると、水で薄めた梅酢は透き通ったピンク色が鮮やかで、酸っぱさと塩辛さが一緒になった味わいがさわやか。うがいをすると、気持ちもシャキッとするような感じがする。もちろん梅酢なので、うがい後そのまま飲んでしまってもかまわない。
さらにみなべ町の人たちは梅干しを毎日1−3個食べ、病気にかかりにくい体づくりに努めているという。
カゼの予防や抗菌以外の働きの解明も進んでいる。東京薬科大学の宮崎利夫名誉教授の研究では、梅にはアスピリンに似た鎮痛効果や血圧を下げる作用を持つ成分が含まれていることがわかった。
また和歌山県立医科大学の宇都宮講師は「梅干しは、血管を収縮させるホルモンの活性を抑え、動脈硬化や肩凝りなどを予防する可能性がある」と話す。
血液中の血小板が凝集したり、白血球が粘着したりするなどの、いわゆる“血液ドロドロ状態”はカルシウムイオンが反応して起こるとされている。梅に含まれる有機酸はこのようなカルシウムイオンの働きも防ぐという。
様々な効果を持つ梅干しだが、気になるのが塩分。減塩タイプでないと塩分が15%を超える場合も多い。1粒15グラムの梅干しで、含まれる塩は2グラム以上になる。厚生労働省が推奨する1日の摂取量は10グラム以下なので食べ過ぎによる塩分過多が心配だ。それを避けるため、みなべ町の家庭で使われるのが「梅びしお」だ。梅びしおは、水で塩抜きした梅干しで作る練り梅のような伝統的調味料で、パンに塗ったり納豆にかけたり、肉料理のソースにしたりする。産地ならではの知恵だろう。
砂糖を多く加えて煮詰めることが多いようだが、カロリーが気になる場合は、砂糖なしでも作れる。梅びしおを作ったらまずよく冷ましてから冷蔵庫に入れ、早めに食べ切るようにしたい。
(日経ヘルス編集部)
効 能 |
有効成分 |
働 き |
疲労回復 |
梅に含まれるクエン酸、リンゴ酸など8種類の有機酸 |
疲労の指標になる乳酸を消し、エネルギーを生み出す効率を高めるため、疲労がたまりにくくなる |
抗菌作用 |
梅に含まれるシリンガレシノール |
食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌など、細菌の増殖を抑える強い抗菌力が確認されている。細菌感染によって起こる肺炎などのリスクを下げる |
免疫力
アップ |
梅肉エキスの中の複数の成分(未特定) |
マクロファージなどの免疫細胞を活性化させるため、免疫力が上がる |
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