日常生活の動作で生じる熱量
こまめな運動・食事制限
生活習慣病防ぐ効果

生活習慣病対策に「ニート(NEAT)」という言葉が注目されている。立ったり歩いたりといった軽い動きを日常生活で頻繁に繰り返すことで、消費エネルギーを増やし肥満を解消しようという考え方だ。軽い食事制限と組み合わせると、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)対策に有効なことがわかってきた。

「ニートを増やすよう、心がけてください」。今春、横浜在住で会社を経営する佐藤友彦さん(仮名、59)は、宇部内科小児科医院(東京・大田)の診察室で團茂樹副院長からこうアドバイスされ首をかしげた。ニート(NEET)という言葉で思いついたのが学校に行かず仕事もしていない若者だからだ。

佐藤さんは健康診断でコレステロール値が高いと指摘され、年に数回主治医の團副院長に診てもらっている。50歳を超えたころから太めの腹が気になるが、ほとんど運動はしていない。時間がなくなかなか継続できない。團副院長は「ジョギングしたり、スポーツジムに通ったりする必要はない。階段の上り下りや、電車の中で立つことなど、日常生活でこまめに体を動かすようにすると減量につながる」と助言する。

ニート(NEAT)とは英語の「ノンエクササイズ・アクティビティー・サーモジェネシス(Nonexercise activity thermogenesis)の頭文字を取ったもので、直訳すると「非運動性活動熱発生」。

人間の1日の消費エネルギー量は基礎代謝で50−70%、消化・吸収などで約10%、残りが運動などで消費される。ニートは姿勢の維持や安静時の新陳代謝など日常生活の身体活動(非運動性活動)で消費され、発生する熱量のこと。1990年代後半に米メイヨークリニックの研究グループが、減量に有効との研究報告をまとめ、「ニート」と命名した。

さらに同グループは2005年1月、米科学誌サイエンスに、やせ気味の人と、肥満気味の人とではニートの量が違うとの研究結果を発表した。10日間の行動記録を分析すると、肥満気味の人はやせ気味の人に比べて、1日平均で約160分長く座っていることがわかった。この差を消費カロリーに換算すると約350キロカロリー、ご飯約1杯半分にあたる。

順天堂大学医学部の河盛隆造教授は「ニートが高い人はこまめに体を動かす習慣を持っているケースが多い」と分析する。例えばテレビを立ったまま見るなどちょっとした工夫でニートは上がる。ニートが上がると基礎代謝量が増える傾向もあり、安静時でもカロリーを消費しやすい体ができるという。
ただ、ダイエットのような減量効果を期待するのは早計だ。

筑波大学大学院の田中喜代次教授は「減量の基本はあくまで食事。食事の量を考えずにニートを上げても効果は期待できない」と指摘する。摂取エネルギー量から見るとニートで消費するエネルギー量はかなり少ない。

人間はじっとしているだけでも1時間で約60キロカロリー、睡眠中でも同約50キロカロリー消費する。一方、缶コーヒーを一本飲めば約70キロカロリー、菓子パン1つ食べれば約500キロカロリー摂取する。田中教授は「ニートで体を絞るのなら、まず食事制限で体重を落とすことが重要」と指摘、「太り気味のまだまだと立っていることにも疲れを感じ長続きしない」と忠告する。

河盛教授らの研究でも、ニートと食事制限を組み合わせることで、はじめて減量と生活習慣病予防につながるという研究成果が出ている。

都内の大手企業で働く肥満の営業マン(平均体重100キログラム)50人を対象に食事制限を実施した。普段の営業活動で地下鉄の階段の上り下りなど1日平均約450キロカロリー消費する。食事による1日の摂取エネルギーは約2700キロカロリーと過剰気味だ。

揚げ物などを制限してカロリーを2200キロカロリーにすると、3カ月後に体重は平均約6%減、肝臓などにたまる内臓脂肪の量も40%程度減少した。高めだった血糖値なども改善したという。河盛教授は「食事の量と質を改善した上で、ニートを高める習慣を身につけるのが生活習慣病予防につながる」と話す。
(西村絵)


ニートを高める日常生活の例


・正しい姿勢で立つ
・階段を使う
・じっと立ったままテレビを見る、本を読む
・立ったまま家事をする
・電車の中で座らずに立つ



2006.10.15 日本経済新聞