首の「こり」に悩む人は多い。首のこりは肩こりほど問題視されにくいが、放置すると症状の悪化や障害につながることも。日本人は体形的に、首の症状を抱えやすいという。生活改善で予防する方法を探った。 |
会社員、M子さん(40)は冬になると首がこる。週1回マッサージに通っているが、こりはひどくなる一方。「マッサージの効果が薄れたみたい。でも首をバキバキ動かすのは怖い」と悩む。
山王クリニック(東京都港区)で頭痛外来を開く山王直子院長は「肩と首と頭は筋肉がつながっている。頭痛、肩こりなら自覚する人が多いが、首は放置されがち。しかし状態を見ると首が疲労している人は多い」と話す。
首の内部には生命を支える重要な器官が入っている。七つの頚椎(けいつい)とそれを支える椎間板、神経の束である脊髄、脊髄から枝分かれした神経根、じん帯、動脈などだ。横から見て頚椎がS字を描くのが首にとって理想的な姿勢だ。しかし「現代の生活は首にとって過酷だ」と、三井弘整形外科・リウマチクリニック(東京都千代田区)の三井院長は指摘する。首に最も負担がかかる姿勢は首が前に出たり、下に下がる「屈曲」状態。ノートパソコンを使う姿勢が典型的だ。「日本人は欧米人に比べて首が疲れやすい。肩幅に対して頭が大きいのに、頭を支える頚椎のサイズは小さい。首自体も短めで、一つ一つの頚椎にかかる負担も分散されにくい」と言う。
三井院長によると、首が原因の症状は4段階で進む。第一段階はこり。第二段階は頭痛・めまい・耳鳴りなど頭部に表れる症状だ。「頭痛に7、8割は首が原因で起きる。この段階なら日常生活での対策で改善できる」
第三段階は、手のしびれ、脱力だ。首の疾患の複雑なところは首以外の部分に症状が現れること。「手に異常を感じたら、MRIかCTのある病院で検査すべきだ」と三井院長。頚椎椎間板ヘルニアや変形性頚椎症などと診断されることがある。第四段階は四肢痙性(けいせい)麻痺。車いす生活などを余儀なくされる。この段階に至ると対処法はない。
さらに三井院長は言う。「医療にできるのは、重症の場合の手術か、対症療法としての鎮痛剤の投薬、牽引(けんいん)くらい。悪くなったら医者に行けばいい、と安易に考えるのは大間違い」
では第二段階までで首の症状を食い止めるには、どうすればよいのか。「マッサージは一時しのぎ。必要なのは適度な運動、姿勢の改善、バランスの取れた食事」と三井院長は挙げる。
運動といっても首そのものは骨が弱く筋肉も少ないため、鍛えることができない。全身の筋肉を鍛えながら、首を支える体づくりをするしかない。三井院長がすすめる運動は腕立て伏せ、肩や腕を前後に回して筋肉をほぐす運動、エレベーターを使わない階段の上がり降りなども、仕事の合間に取り入れたい運動だ。
姿勢は意識して改善するしかないが、効果的なのは固い床に5分間、仰向けになって寝ころぶこと。「昼休みにベンチで寝ころぶ会社員の姿を見かけるが、まっすぐ寝ころぶと首のためにはいい」
食事は椎間板を強くするコラーゲン、関節の動きをなめらかにするムコ多糖類、骨を作るカルシウム、組織強化の基本となるタンパク質を多く含む食品をとるといい。
日常生活での予防は重要だが、すでに首のこりに悩まされ、マッサージが欠かせないMさんのような人はどうすればよいか?血行をよくする方法として山王クリニックの山王院長は「ホットタオルで温めること。また漢方薬の葛根湯を処方すると改善する人が多い」と話す。「1日1回、昼間に飲むと楽になるだろう。夜に服用すると神経が高ぶって寝付きにくくなる」
たかがこり、と思わず、こまめな生活改善で悪化を防ぐことが大切だ。
(ライター 長田 美穂)
1) あごと手の押し合い
1.あごの下に手のひらをあてる
2.手のひらとあごをお互いに押し合う。頭を動かさないこと。1回2−3秒で1日10回 |
2) 後頭部と手、おでこと手の押し合い
1.両手の指を組み、後頭部に当てる。手と頭を押し合い、頭を動かさない。1回2−3秒で1日10回
2.次に重ねた両手をおでこに当てて、手とおでこを押し合う。1回2−3秒で1日10回 |
■椎間板を強くする(コラーゲンを多く含む)鶏手羽肉、スペアリブ、牛すじ、ウナギ、フカヒレ |
■関節の動きをなめらかに(ムコ多糖類を多く含む)納豆、山芋、おくら、なめこ |
■骨を作る(カルシウムを多く含む)干しエビ、煮干し、牛乳、木綿豆腐、ひじき(カルシウムの吸収を助ける)サケ、カレイ、干し椎茸、しめじ |
■組織の結び付きを維持する(タンパク質を多く含む)牛肉、豚肉の赤身、大豆製品、そら豆、小豆
(三井弘院長による) |
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