骨折や生活習慣病のリスク上昇
年齢に応じた肥満度維持が大切

若い女性を中心に痩身(そうしん)願望は強いが、標準体重を下回ると骨粗しょう症などになりやすくなるという。無理なダイエットはむしろ太りやすいからだをつくり、生活習慣病になるリスクが高まることがわかってきた。

昨年9月、スペイン・マドリードのファッションショーでやせ過ぎたモデルの出演が禁止された。若者がモデルをまね過剰なダイエットに走るのを防ぐのが目的。イタリアでも政府がやせ過ぎ対策としてモデルに健康診断書を提出するよう求め、ローマなどのファッション協会と合意した。イタリアでは約300万人が拒食症や過食症などに悩んでいると言われている。欧州では極端にやせようとする若い女性が急増、大きな社会問題となっている。

減量で太りやすく
国内では欧州のような目だった動きはまだないが、やせ過ぎ女性の健康相談にのる久我山病院(東京・世田谷)の中村幸雄院長は「若い女性の痩身願望がきわめて強いのは日本も同じ」と指摘する。
体重(キロ)を身長(メートル)で2回割って算出する体格指数(BMI)。18.5未満のやせた女性の割合は20代と30代で急増中だ。厚生労働省の統計によると2004年、20代で21.4%、30代で15.6%。20年前よりも4割から7割増になった。

中村院長によると「急激なダイエットによって3カ月から1年で体重が1−3割減ると月経周期が乱れたり月経がなくなったりすることが多い」という。詳しく調べると約90%が25歳以下だった。
食事を減らすだけのダイエットを繰り返すと体に変化も起きる。

一種の飢餓状態に陥るダイエットは脂肪と同時に筋肉も落ちる。ダイエットをやめて体重が増えても筋肉量は戻らず、脂肪だけが増加、体脂肪率は上がりやすい。基礎代謝率が低下し、同じ食事をとっても体重がより増えるようになる。また、ダイエット時の影響で体が高脂肪食を欲するようになる。
国立長寿医療センター研究所の下方浩史部長は「無理なダイエットに失敗し、またダイエットする。この繰り返しが、結果的に肥満につながり生活習慣病のリスクを上げる」と解説する。

一般にBMIが低い人ほど骨密度が下がる。65歳以上8千人の女性を約6年間追跡調査した米国の研究によると、体重が大幅に軽い人は大幅に重い人より約2倍程度骨折しやすかった。国立健康・栄養研究所の佐々木敏栄養疫学プログラムリーダーは「若い時期に極端に骨密度が下がっていると高齢者になってからの骨折が増えて寝たきりリスクが高まる可能性がある」と話す。

死亡率も高まる
やせ過ぎの健康リスクは何も若い女性に限ったものではない。

国立がんセンターなどは1990年代、45歳から54歳の男女4万人を10年間追跡してBMIごとの死亡リスクを調べた。男性の場合、「BMIが23から25未満のグループ」の死亡リスクを1とすると、「14から19未満」の人は2.3倍、「19から21」の人は1.6倍、「21から23」の人は1.3倍だった。女性も「14から19」だと1.9倍だったが、ほかは変わらなかった。研究に参加した佐々木リーダーは「男性はやせ過ぎると急激に死亡リスクが上がる」と解説する。

死因は詳しく調べるとやせ過ぎは感染症やがんで命を落としやすい傾向があることがわかった。因果関係ははっきりしないが「やせ過ぎていると体の抵抗力がなく病気を克服できない可能性がある」(佐々木リーダー)。

米国の生命保険会社は400万人以上のデータから、年代ごとに最も死亡率の低い理想的なBMIをはじき出した。男女共に大きな差はなく、30歳代だと約21、50歳で約24、60歳で約26と年齢とともにほぼ直線的に増加する。

日本人でのデータはまだないが、下方部長は「健康的な長寿を目指すにはやせすぎず太りすぎず。年齢にあった肥満度を維持していくことが重要」と話す。     (西村 絵)
ダイエットの繰り返しは体に良くない
○や若い女性を中心に痩身(そうしん)願望は強いが、標準体重を下回ると骨粗しょう症などになりやすくなるという。無理なダイエットはむしろ太りやすいからだをつくり、生活習慣病になるリスクが高まることがわかってきた。
昨年9月、スペイン・マドリードのファッションショーでやせ過ぎたモデルの出演が禁止された。若者がモデルをまね過剰なダイエットに走るのを防ぐのが目的。イタリアでも政府がやせ過ぎ対策としてモデルに健康診断書を提出するよう求め、ローマなどのファッション協会と合意した。イタリアでは約300万人が拒食症や過食症などに悩んでいると言われている。欧州では極端にやせようとする若い女性が急増、大きな社会問題となっている。
減量で太りやすく
国内では欧州のような目だった動きはまだないが、やせ過ぎ女性の健康相談にのる久我山病院(東京・世田谷)の中村幸雄院長は「若い女性の痩身願望がきわめて強いのは日本も同じ」と指摘する。
体重(キロ)を身長(メートル)で2回割って算出する体格指数(BMI)。18.5未満のやせた女性の割合は20代と30代で急増中だ。厚生労働省の統計によると2004年、20代で21.4%、30代で15.6%。20年前よりも4割から7割増になった。
中村院長によると「急激なダイエットによって3カ月から1年で体重が1−3割減ると月経周期が乱れたり月経がなくなったりすることが多い」という。詳しく調べると約90%が25歳以下だった。
食事を減らすだけのダイエットを繰り返すと体に変化も起きる。
一種の飢餓状態に陥るダイエットは脂肪と同時に筋肉も落ちる。ダイエットをやめて体重が増えても筋肉量は戻らず、脂肪だけが増加、体脂肪率は上がりやすい。基礎代謝率が低下し、同じ食事をとっても体重がより増えるようになる。また、ダイエット時の影響で体が高脂肪食を欲するようになる。
国立長寿医療センター研究所の下方浩史部長は「無理なダイエットに失敗し、またダイエットする。この繰り返しが、結果的に肥満につながり生活習慣病のリスクを上げる」と解説する。
一般にBMIが低い人ほど骨密度が下がる。65歳以上8千人の女性を約6年間追跡調査した米国の研究によると、体重が大幅に軽い人は大幅に重い人より約2倍程度骨折しやすかった。国立健康・栄養研究所の佐々木敏栄養疫学プログラムリーダーは「若い時期に極端に骨密度が下がっていると高齢者になってからの骨折が増えて寝たきりリスクが高まる可能性がある」と話す。
死亡率も高まる
やせ過ぎの健康リスクは何も若い女性に限ったものではない。
国立がんセンターなどは1990年代、45歳から54歳の男女4万人を10年間追跡してBMIごとの死亡リスクを調べた。男性の場合、「BMIが23から25未満のグループ」の死亡リスクを1とすると、「14から19未満」の人は2.3倍、「19から21」の人は1.6倍、「21から23」の人は1.3倍だった。女性も「14から19」だと1.9倍だったが、ほかは変わらなかった。研究に参加した佐々木リーダーは「男性はやせ過ぎると急激に死亡リスクが上がる」と解説する。
死因は詳しく調べるとやせ過ぎは感染症やがんで命を落としやすい傾向があることがわかった。因果関係ははっきりしないが「やせ過ぎていると体の抵抗力がなく病気を克服できない可能性がある」(佐々木リーダー)。
米国の生命保険会社は400万人以上のデータから、年代ごとに最も死亡率の低い理想的なBMIをはじき出した。男女共に大きな差はなく、30歳代だと約21、50歳で約24、60歳で約26と年齢とともにほぼ直線的に増加する。
日本人でのデータはまだないが、下方部長は「健康的な長寿を目指すにはやせすぎず太りすぎず。年齢にあった肥満度を維持していくことが重要」と話す。     (西村 絵)


ダイエットの繰り返しは体に良くない


○やせにくい体質になる
○肥満になる
○血圧が上がる
心臓病・糖尿病・高血圧症・高脂血症
・急激な体重変化で臓器障害
・食事制限でカルシウムや鉄、ビタミン不足
骨粗しょう症など
年齢別に見たBMIによるやせの基準値
20〜29歳   18未満
30〜39歳   19未満
40〜49歳   20未満
50〜59歳   21未満
60〜69歳   22未満
70歳以上    23未満

(国立長寿医療センター研究所 下方浩史部長作成)

2007.2.25 日本経済新聞