流し台磨く、ぞうきん絞る
痛みのない動作を工夫


蛇口をひねったり、ひじを伸ばした状態で重い物を持つなど何気ない動作の折にひじが痛むことはないだろうか。ひじの外側が痛ければ「上腕骨外側上顆(か)炎」の疑いが強い。テニス選手がバックハンド打ちにより痛めるために一般には「テニスひじ」と呼ばれているが、実はテニスとは無関係でも悩む人が多い。手を使うたびに痛み、日常生活にも不便を生じるなど厄介だ。

「イタっ」――都内の主婦S子さん(38)はフライパンを取ろうと手を伸ばした瞬間、電気が走るような痛さに思わずひじを押さえ込んだ。とりあえず湿布を張って痛みを我慢、その場をしのいだ。

スポーツをしたなど特に思い当たることもなかったので、その後も放っておいた。だが、痛みはひくどころか悪化の一途。洗濯物など重いものをぶら下げればもちろん、流し台を磨いたりぞうきんを絞ったりするだけでも激痛が走る。包丁で硬い物を切るのも一苦労。コーヒーカップも持ち上げられない。さすがに慌てて整形外科を訪れた。

「ひじ関節の外側には手首をそらす筋肉がついている。この筋肉と骨とをつなぐ腱(けん)を使いすぎたことで、つなぎ目に負担がかかり炎症が起き、その結果痛みを生じるとみられている」
慶応義塾大学の池上博泰整形外科専任講師はこう解説する。腫れなどはなく関節の動きも正常。レントゲンでも大抵異常は見られない。そこで病院では、例えばひじを伸ばしていすの背を持ち上げる時に痛むかどうかを見て、テニスひじなのか診断する。

発症のきっかけがはっきりしないこともあり、キーパンチャーや美容師、調理や洗い物仕事に携わることなど腕を多く使う人に起こりやすい。ほとんどの場合、痛みが出るのはよく使う利き腕の側だ。ひじの内側が痛むフォアハンド型のテニスひじもあるが、日常生活で発症するのはバックハンド型が圧倒的という。

40代の女性に多く
40歳前後の女性に症状が多い点もテニスひじの特徴だ。福山整形外科クリニック(東京・港)の福山泰平院長によると、掃除や水仕事などはひじに負担のかかる動作が多い上、加齢による筋肉の衰えや柔軟性の欠如なども加わり発症数が増えるという。

冒頭のS子さんが「今思えば」と話し始めたのが、昨年までしていた1日7時間、パソコンで数字入力する派遣の仕事。「最初、机の幅が狭く手首もひじもずっと宙に浮いたままの作業で、腕が疲れるのでデスクを交換してもらった」ほどだった。家での植木の水やりや床のワックスがけなども、いつしかひじに負担を強いていたようだ。

治療には消炎鎮痛内服薬や湿布、塗り薬を併用するが、大切なのは日常生活で「痛みが起こる動作を極力しない」こと。もちろん、ひじや腕はどうしても使うので、「痛みを起こさない動作に置き換える工夫が必要」(聖路加国際病院の星川吉光整形外科部長)になる。具体的には、例えばかばんを持つ時にはひじを伸ばしてぶら下げるのではなく、曲げて持ち手をひっかけるようにする。タオルを絞る時も、腕をひねって水を切るのではなくなるべく流し台の底に押し付けて水を切るようにする。重い引き出しは初め少しだけ引き出したら、手のひらを逆に返して残りを引き出す――といったアイデアだ。

サポーターも有効
ストレッチも痛みを和らげ、筋肉の伸縮性を回復するのに効果的。ゆっくり呼吸しながら、少なくとも1カ所、30秒くらいはかけて伸ばす。痛みがひいてきたら、500グラムから1キロ程度の軽いダンベルを使って筋力アップも図り、再発防止効果を高めたい。

テニスひじ用のサポーターも有効だ。手首などから来る衝撃をひじの痛い部分に達する前に吸収、分散して痛みを和らげる効果があるという。ある程度しっかり締めることが大切で、作業をする前に装着すると動作が楽になる。

治癒に時間がかかるとはいうものの半年以上も痛みがとれない、しびれが続く、ひじ周辺だけでなく首まで痛むなどの症状が出る場合は何か他に原因があることも考えられる。「そのような場合は専門家に相談して詳しい検査を受けた方がよい」と福山院長はアドバイスしている。       
  (ライター  佐藤 裕理子)


思い立った時のストレッチ
(右のひじの外側が痛む場合)

1.ひじを曲げ(痛みがなければ真っ直ぐに伸ばし)、ゆっくり呼吸しながら左手で右手首の関節を手の甲側に向かって曲げ、30〜60秒静止する動作を2、3回繰り返す

2.基本動作は@と同じで、今度は右手首の関節を手のひら側に向かって曲げ、30〜60秒静止する動作を2、3回繰り返す

筋力アップトレーニング
(痛みがとれてきたら、上のストレッチと併せて行う)

1.手のひらを下に向けて腕を机などの台に置き、ダンベル(0.5〜1kgぐらい)を持ち、手の甲の方向に手首を巻き上げる動作を10〜20回ほど繰り返す

2.基本動作は@と同じで、今度は上に向けた手のひらの方向に手首を巻き上げる動作を10〜20回ほど繰り返す


2007.3.31 日本経済新聞