いびきがひどくなると睡眠中にのどの気道がふさがり一時的に呼吸が止まってしまう。睡眠時無呼吸症候群と呼ぶ病気で患者数は300万−500万人とされる。日中、急激な眠気に見舞われる。最近の研究で高血圧や糖尿病、心筋梗塞(こうそく)など生活習慣病の一因になっていることがわかってきた。
太っている人やあごが小さい人、首が短い人がいびきをかきやすいとされる。どうしてだろうか。
肥満になると口内やのどにも脂肪がつくため気道が狭くなる。口から入った空気が無理やり通ろうとして、周囲の粘膜や筋肉などと摩擦を起こして発声する音がいびきだ。短い首の人も気道の周りに脂肪がつきやすい。小さなあごの人は、あおむけに寝たときに舌の付け根がのどの奥の方に落ち込んで気道が狭まってしまう。
手っ取り早いいびき解消法が、横向けの姿勢で寝るように心がけること。こうすると舌で気道がふさがりにくくなって、いびきの回数が減る。音も小さくなる。ただ、慣れないと体を横向きにして寝たつもりでも、睡眠中にどうしてもあおむけになってしまう。こうした人は、抱き枕を活用するのも手だ。あおむけにしか眠れない人でも、自分にあった枕を選べばいびきが減ることもある。
太っている人はなんとしても肥満を解消すること。体重を減らすだけでその分、気道はふさがりにくい。また、寝る前の飲酒はできる限り控えよう。アルコールの影響で睡眠中、舌の筋肉がゆるんでしまうからだ。
家族からいびきを指摘されている段階ならまだいいが、夜中に目覚めた時に息苦しさを感じたり、睡眠時間を十分とっていても昼間に何度も眠気を感じたりするようだと要注意。定期的に気道が完全にふさがって呼吸が止まっている可能性がある。
虎の門病院の睡眠センターには、いびきや睡眠時の無呼吸に悩む多くのビジネスマンらが訪れる。成井浩司・睡眠センター長が751人の睡眠時無呼吸症候群の患者を調べたところ、6割以上が高血圧、2割弱が糖尿病だった。
生活習慣病を併発しやすい理由について、成井医師は「自律神経系の1つである交感神経の働きと大きなかかわりがある」と説明する。
健康な人は昼、活発に活動しているときは交感神経が強く働き、睡眠中などリラックスしているときは副交感神経が優位になる。ところが睡眠中に無呼吸になると、血液の酸素濃度(酸素分圧)が低下、本来は静まるべき交感神経が夜も活発になってしまう。交感神経が強く働くと血圧が上がりやすい。
自治医科大学の苅尾七臣教授らは独自の検査装置で睡眠時の無呼吸と血圧との関係を調べた。頻繁に呼吸が止まり酸素分圧が下がると、その都度血圧が上がる。一時的に100ほど上昇する患者もいたという(左グラフ参照)。
交感神経優位は血糖値を高くするホルモンなども分泌され糖尿病を招く。血中の酸素不足は動脈硬化や不整脈にもつながり、これらが絡み合って心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす原因になる。
睡眠時無呼吸症候群は40−60代の中高年男性に多いが、最近は30代も増えてきている。東京労災病院の戸島洋一・呼吸器内科部長は「体重(キロ)を身長(メートル)で2回割って算出するBMIが30を超えている人は気をつけてほしい」と話す。
1時間に20回以上呼吸が止まる中程度以上の患者を対象にした治療法が「CPAP(シーパップ)」。鼻にマスクを付けて空気を送り込み、睡眠中の気道の広がりを確保する。保険が利き月4500円前後の自己負担で済むが、定期的な通院が必要となる。
軽度だと、やせていてあごの小さな人はマウスピースを使った治療も有効だ。睡眠時に舌あごを固定して気道を確保する。このほか、病院で栄養指導を受けて肥満を改善する減量療法や、へんとう腺が肥大して気道を圧迫している人を対象とした手術などもある。(本田幸久)
40、50代の中高年男性や閉経後の女性 |
太っている |
あごが小さい |
首が短い |
枕があっていない |
寝酒する |
いびきの音が大きい |
いびきの回数が多い |
夜中目覚めたときに息苦しい |
夜中に何度もトイレで目が覚める |
たっぷり睡眠時間をとっていても昼間眠い |
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