1日1回 適度な汗
食事と入浴で血行促進


本格的な梅雨入り前というのに、今年も各地で気温30度以上の真夏日が記録されるなど、暑くなる時期は徐々に早まる傾向にあるようだ。そこで心配なのが夏バテだが、病状や原因は人によって様々。普段の生活を点検し、夏本番にしっかり備えておきたい。

都内の会社に勤務する女性のAさん(35)は毎年、夏になると疲れやすくなる。「暑さでよく眠れなくなり、食事も冷たくあっさりしたものしかのどを通らなくなる」という。暑さで体調を崩す典型的な夏バテの症状だ。

暑いと冷たいものが欲しくなるのは当然だが、これが夏バテを招くことがある。例えば汗をかいて水分を補給する場合、一度に大量に飲むと胃酸が薄まって消化機能の低下を招く。Aさんのように、冷たい麺のようなあっさりしたものばかりを食べるのも、栄養に偏りが生じてしまうので禁物だ。

ネギ、豚肉おすすめ
発汗に伴い、体内からはビタミンB1やカルシウム、鉄分などが失われる。食事で足りなくなった栄養素を補給することが大切だ。ビタミンB1は豚肉や玄米、うなぎに多く含まれる。「ネギ類やにんにくもおすすめ。ビタミンB1が排せつされにくくなるほか、香りと刺激で食欲の増進効果が期待できる」(ヘルスサポート研究会カナン代表、管理栄養士の新出真理さん)。水分はこまめに補給したい。

「敵」は暑さだけでない。中国漢方の教室を開くアクシスアン(東京・港)の峯村静恵社長は「最近の夏バテは昔とは違う」と語る。暑さではなく冷房によって体調を崩す人が増え、「冷房病」という言葉もたびたび耳にする。

冷房病は手足の冷えや不眠、頭痛などの症状を招く。東京ガス都市生活研究所の調べによると、夏でも冷え症だと感じる女性は約半数以上に上る。特に20代、30代の女性にその傾向が強い。男性や外回りの人が多い職場で冷房設定温度を低くし、オフィスにいる時間の長い女性が肌寒さを感じてしまうケースが多い。

同研究所の興梠真紀さんは、湯船につからず、シャワーだけで済ます人が増えていることが気にかかるという。特に夏場は熱いお湯を避けたいという人が多くなりがちだ。調査では「1年中シャワーのみ」という人を含め、「夏に湯船につからない」人の割合が20代で54.5%、30代でも48.7%に達した。

「きちんと湯船につかることが重要。1日1度は汗をかいてほしい」(興梠さん)。半身浴でセ氏37−38度ほどのぬるめのお湯に15−20分程度つかるのが有効という。手や足の先をしっかりと湯で温め、血行を促進することが大切だ。

酸味、辛みも有効
食事でも冷房病は通常の夏バテ対策とは異なる。峯村アクシスアン社長は「以前はナスやトマト、スイカなど夏の食材で体を冷やすことが夏バテ対策と考えられてきたが、冷房病の人には根菜など冬の食材を薦めたい」と話す。

管理栄養士の新出さんも、「体を内側から温めるよう、体温上昇効果のある卵、魚、肉などの主菜、乳製品を取ることが必要」と指摘。たんぱく質を多く含むので、体の発熱器官でもある筋肉量の減少を予防できるという。ただ、主菜は脂肪も多いので取りすぎは禁物だ。

冷えた室内と暑い野外の温度差で体調を崩す人も多い。自律神経のバランスが乱れ、食欲不振などに陥る。こうした症状が出た場合は「塩分ではなく、香辛料や酸味、辛みを取ると、脳内の摂食中枢を刺激して食欲が改善しやすくなる」(新出さん)。

外気と室内の温度差は5度以内にとどめ、冷房の設定温度を25度以下にしないのがよい。夏バテの症状は人によって違うが、日ごろの生活を見直せば予防できる。逆に対策を誤ると症状を悪化させてしまうこともあるだけに自分の身体の状態をよく把握し適切な対処を心がけたい。


夏バテ対策は原因を知ることから

原因1 暑さで大量の汗をかく
■バランスのよい食事で発汗によって失われた水分、ビタミンB1、ミネラルを補給する
■冷たい飲み物の飲みすぎに注意。汗をかいた時にこまめにとる

原因2 冷房で体が冷える
■体温の上昇効果が見込める魚、肉、卵、大豆などの主菜をしっかりとる
■シャワーですませず、きちんと湯船につかり1日1度は汗をかく
■オフィス内ではカーデガンやひざ掛けを利用する
原因3 室内と野外の温度差で食欲不振に
■香辛料などで摂食中枢を刺激し、食欲を取り戻す




2007.6.2 日本経済新聞