太もも内側「内転筋」を鍛えて
屈伸時、ひざの向き注意


太ももの内側にある「内転筋」をご存知だろうか。ここを鍛えると正しい姿勢を保てるようになり、O脚や腰痛、肩こりも和らぐという。ただし、その存在は普段意識しづらいだけに、鍛え方も一工夫だ。

街中で奇妙な立ち方をした若い女性を見かけたことがないだろうか。肩幅ほどに開いた足先を内側に「八の字」に向け、上半身が骨盤の上にもたれ掛かるように立っている。緊張感のない姿勢だが、ある女性(22)は「こうして立つと楽だから」と話す。

この立ち方の特徴はひざの向き。健康運動指導士である高輪アクティブ治療院(東京・港)の黒田美恵子さんによると、脚を開いてひざを内側に向けることで股(こ)関節がロックされた状態になる。太ももの内側を閉め、内転筋に力を入れなくても楽に立ててしまうのだ。

ところが、これでは骨盤が後ろに傾き、腰がやや前に突き出た格好になる。立ち姿が美しくないばかりか「将来、尿失禁などを起こす可能性もある」(黒田さん)。内転筋を使う立ち方は肛門(こうもん)を閉める働きをする肛門括約筋、骨盤底筋なども同時に刺激。だがこうした立ち方は内転筋を使わず、骨盤底筋も衰える結果、尿失禁などを引き起こしかねないという。

内転筋は主に太ももを引き付け内側に閉じるときに使う筋肉。岡山大学の三浦孝仁教授(運動学)によると、長内転筋や大内転筋など複数の筋肉からなり、正確には「内転筋群」と呼ばれている。太ももの断面積の実に約25%を占め、股関節と大腿(だいたい)骨をつなぐ重要な筋肉の集まりの一つだ。

ヒップ垂れる一因
このため、内転筋が衰えると体に様々な影響が出る。一つはお年寄りに多く見られるケースで、太ももを内側に閉じる力が弱まることで歩行時にひざが外へ向いてしまう。左右の足の幅が徐々に広がるような歩き方になり、O脚になってしまう。

もう1つは女性特有の症状で、骨盤の緩みを感じるようになる。股関節が外側に広がるような歩き方になり、O脚になってしまう。

もう1つは女性特有の症状で、骨盤の緩みを感じるようになる。股関節が外側に広がるため、お尻の横幅が大きくなりヒップも垂れてくる。パンツ姿が格好良くないうえ、お尻の少し上の位置に痛みを訴える女性も多いという。

内転筋を鍛えることで、こうした症状を改善でき、正しい姿勢を保つことにもつながる。股関節やひざ、足首の痛みに加え、上半身の肩こりも和らぐ。「体の中心軸を支える土台がしっかりし、骨盤の緩みを補おうと無理をしていた上半身がリラックスするから」(黒田さん)だ。

それでは、内転筋をどのように鍛えたらいいのだろうか。まずは室内で家事や仕事の合間に無理なくできるエクササイズのポイントを教えてもらった。

初めに両足のかかとをつけつま先を約45度に開く。次に息を吸いながらひざを足先と同じ方向に軽く曲げる。無理に深く曲げなくていい。続いてゆっくり息を吐きながら、5秒くらいをかけて太もも内側の後ろ側を閉めるように脚を伸ばす。お尻の下あたりを意識して行うといい。

親指を意識し歩く
この一連の動作で注意すべき点は、つま先とひざの向きが異なったまま曲げないこと。また脚を伸ばすとき、ひざを閉じるように力を入れてはいけない。ひざを痛める危険性があるからだ。

回数は5−10回を目安にし、毎日午前と午後、1セットずつ行うといい。ひざ、股関節が痛むようならば、1日1セットにしたり、1セットの回数を減らしたりする。

ウオーキングでも内転筋を刺激できる。注意する点は脚をそろえた状態から左右の足をそれぞれそのまま真っすぐ前に運ぶこと。しかも、足の親指側で地面を押し切る感覚がポイントになる。両足を同じ一直線上に運ぶのではなく、つま先はやや外向きにしてかかとを一直線上に移動させる歩き方が理想。

エクササイズは正しい方法を身につけ続けることが大切だ。頑張りすぎると長続きせず、けがの原因になる。「どちらも負荷の少ないエクササイズであり、ウオーキングの方法。日常の習慣にして無理なく続けてほしい」と黒田さんはアドバイスしている。


室内で内転筋を鍛えるときのポイント

良い例○
・かかとをつけ、つま先を約45度に開く。手はお尻のポケットの位置に添える

・息を吸いながら、ひざを両足先と同じ方向に軽く曲げる。ひざ頭の位置はつま先より前に出ないように

・5秒くらいかけてゆっくり息を吐きながら、ももの内側の後ろ側を閉めるようにして脚を伸ばす。そのとき、お尻の下あたりに意識を集中

・回数は5−10回が目安。午前、午後1度ずつ。翌日に筋肉痛やひざ、股関節に痛みがあれば1度に行う回数を減らす。無理をしない

悪い例×
・つま先は大きく開いているのにひざを前に向けて曲げないようにする。つま先とひざの向きが異なったまま曲げると、ひざを痛める恐れがある

・脚を伸ばすとき、ひざを閉じるよう力を入れてはいけない





2007.6.2 日本経済新聞