駅や学校にAED(自動体外式除細動器)
音声案内で操作簡単



駅や学校などで「AED」と書いた箱を見かけるようになった。自動体外式除細動器のことで、事故や病気で突然心臓が止まった人に電気ショックを与え、拍動を取り戻す救命装置だ。操作方法を知らなくても音声案内付きで、誰でも簡単に使うことができる。心停止では救急車を待っていたらまず助からない。即座にAEDを使えば、救命の可能性は飛躍的に高くなる。

4月、私立飛翔館高校(大阪府岸和田市)で野球の試合中、ピッチャーの上野貴寛君が左胸に打球を受けて倒れた。顔が真っ青になり呼吸が途絶えた。スポーツなどで胸に衝撃が加わると心停止に陥る「心臓震とう」で、すぐに監督が心臓マッサージをし、観戦していた救急救命士が学校にあったAEDで電気ショックをかけた。「呼吸が戻り、呼びかけに反応するようになった」(長岡弘政教頭)。今では元気に学校に通い、野球の練習に励んでいるという。

心臓が原因で突然死する人は1日約100人。若年者では心臓震とうや先天性心疾患、中高年だと心筋梗塞(こうそく)や心筋症などが多い。

大抵は最初に心臓が細かくけいれんする「心室細動」に陥る。意識と呼吸を失い、放っておくと約10分で命を落とす。だが、「心室細動になってすぐ電気ショックをかければ、大半は究明できる」と、東京都済生会中央病院の三田村秀雄副院長は話す。しかも、「後遺症もなく、劇的に良くなることが多い」という。

米調査によると、心停止で倒れてから3分以内に電気ショックをかければ、74%が助かる。1分遅れるごとに救命率は7−10%ずつ下がる。日本国内の場合、救急車が到着してショックをかけるとなると平均13分かかる。その場にいる人がAEDを使わない限り、救命は難しい。

操作は簡単だ。右胸の上の方と左の脇腹の電極にパッドを張り、ボタンを押すだけ。電源を入れれば何をするか音声が指示をしてくれる。「もしほかの病気で、電気ショックをかけたら危険では……」とためらうかもしれないが、心配ない。患者の心電図を自動解析し、必要がないと電気が流れない仕組みになっている。

注意事項は「胸がぬれていたらふく」「電極パッドは肌にじかにはる」「心電図の解析中と電気ショックをけける時は患者から離れる」の3つ。これらを間違えるとうまく電気ショックがかからない。
三田村副院長は「一般の方が使うのなら、間違えても構わない」と話す。何もしなければ患者は確実に死んでしまう。命が助からなくても、責任を問われることもない。

AEDが到着するまでと電気ショックをかけた後は、絶えず心臓マッサージを続ける。人工呼吸も「自信がなければしなくてよい。心臓マッサージを一生懸命する方が大事」(三田村副院長)という。

救急救命法の講習は、最寄の消防署や日本赤十字社で受講できる。また特定非営利活動法人(NPO法人)のAED普及協会(048・525・1696)、京都AED普及教育協会(075・212・1958)は、全国で出張講習を実施している。

AEDは全国に約9万台以上設置、探せば近くにあることが多い。救命法を指導してくれたAED普及協会のインストラクター、大久保実さんは「いざという時にボタンを押す勇気を持ってほしい」と話している。

 



1

意識確認 肩をたたき「大丈夫ですか」と呼びかける。反応がなければ周囲の人を呼ぶ。「あなたは119番」「あなたはAEDを持ってきて」と特定の人に頼む

2

呼吸確認 あごを持ち上げ、頭を後ろにのけぞらせる。顔を近づけて息の音がするか、息をほおで感じるか胸が上下しているかを見る

3 心臓マッサージ 息がなければすぐ心臓マッサージ。両乳首を結んだ線のまん中に手の付け根をあて、もう一方の手を重ねる。腕を伸ばして真上から体重をかけ、4、5センチ沈むまで押して、離す。1分に100回のリズムで
4

AEDの電極パッド装置 AEDがきたら胸をはだけ、ぬれていたらふく。AEDの電源を入れる。音声案内「電極パッドを患者の胸に装着してください」に従い、右胸の上の方と左脇腹にパッドをはる

5 心電図解析 音声案内が「心電図を解析中です。患者に触れないでください」と言ったら、患者に触れないで待つ
6

電気ショック 音声案内が「ショックが必要です。充電中です」「患者から離れてボタンを押してください」と言ったら、「みんな離れて」と周囲に声をかけ、ボタンを押す

7

意識と呼吸が回復しなかったら、心臓マッサージを再開する。2分たつと再び音声が「心電図を解析中です」と言うので、5に戻る。以下、救急車の到着まで繰り返す。


<注意事項>


・1歳以下の乳児には使わない
・電極は素肌にはる。ネックレスなどをはさまない
・患者の体が小さく、電極同士がくっついてしまう時は、胸と背中にはる
・音声が「ショックは必要ありません」と言ったらボタンは押さず、救急車到着まで心臓マッサージを続ける





2007.7.1 日本経済新聞