中高年の男性の約半数、女性の2割がメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)か、その予備群であることが厚生労働省の調べで分かった。同症候群は心筋梗塞(こうそく)や脳卒中リスクが高まると恐れられているが、内蔵についた脂肪を落とせば比較的楽に克服できる。不安がらず、毎日1時間を目標に歩き、食事は腹八分目を心がけよう。
メタボリック症候群は、「隠れ肥満」ともいわれる内臓脂肪型の肥満に、高血圧や高脂血症、高血糖のうちいくつかの症状が重なった状態のことをいう。放っておくと動脈硬化になりやすいといわれているが、まだ、この段階では必ずしも病気とは言えない。内臓肥満かどうかは男性でウエスト85センチ以上、女性だと90センチ以上が目安になる。
厚労省が5月8日に公表した国民健康・栄養調査(2004年)によると、20歳以上の男性の23%、女性9%が該当することがわかった。人口統計から推計すると約1300万人、予備群まで含めると約2700万人にものぼる。
メタボリック症候群が注目されるようになったのは1999年に世界保健機関(WHO)が診断基準を発表したことがきっかけ。国内では昨年4月、日本肥満学会や日本糖尿病学会など8学会が、日本人向けの診断基準を定めた。
この1年で生活習慣病の元凶とみなされるようになったが、医学的に全く新しいことを言っている訳ではない。
昔から「死の四重奏」ともいわれ、肥満症に高血圧、糖尿病、高脂血症が重なると動脈硬化リスクが高まることは知られていた。例えば糖尿病患者は心筋梗塞を発症する確立が高い。内臓脂肪に焦点をあて死の四重奏にはなかった診断基準が明確に示されたことが大きな違いだ。
「過剰に警戒しすぎている」との批判も出てきた。
5月10日の衆議院厚生労働委員会。民主党議員が「厚労省は国民の不安をあおっているのではないか」とただした。根拠の1つに米国と欧州の糖尿病研究団体が昨年公表した同症候群への懐疑的な意見を挙げた。
「定義がまちまち」「危険因子となっている肥満症や高脂血症などは、個々の病気のリスク管理で十分ではないか」など、心臓病の危険指標として使うことに待ったをかけたものだ。こうした批判について島本和明・札幌医科大学付属病院院長も「原点にもう一度立ち戻って冷静に議論すべきという問題提起だ」と見る。
国内の診断基準には異論もある。
男性85センチ、女性90センチというウエストの基準値はコンピューター断層撮影装置(CT)で撮影した内臓脂肪の断面積100平方センチメートルにあたる。女性のウエストが男性より大きいのは皮下脂肪が多いためだが、京都大学の中尾一和教授らの指摘だと、基準値より10センチ以上小さくても「問題あり」の女性もいるという。
40−59歳の男女約3500人の内臓脂肪の断面積をCTで計測、肥満に糖尿病や高脂血症などを合併するリスクが高まる断面積は男性が100平方センチだったが、女性だと65平方センチだった。ウエストに換算すると77センチに該当するという。
メタボリック症候群を克服するには生活スタイルを見直すことが一番。日本肥満学界は3−6カ月かけて体重を5%減らすことを推奨する。内臓脂肪は皮下脂肪に比べ落ちやすい。体重を減らせばその分ウエスト減につながる。
「一に運動、二に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」。厚労省もこうした標語を作り、ポスターなどで啓蒙(けいもう)していく考え。また2008年度をめどに、企業や自治体の健康診断にメタボリック症候群の検査を導入する方針だ。
採血によって血糖値を調べるような、より正確な検査法の開発も進む。東京大学の門脇孝教授らは血液に含まれる善玉ホルモンと同症候群との関連性に着目、診断に生かす研究を進めている。
おなか周りをチェックし「危ない」と思ったら、まず生活スタイルを見直すこと。血圧や血糖値、コレステロール値なども継続的に調べるようにしよう。軽んじるのはよくないが、過剰反応することはない。
(長谷川章)
1.ウエストが男性85センチ。女性90センチ以上
2.中性脂肪が150mg/dL以上、または善玉コレステロール(HDL)が40mg/dL未満
3.上の血圧が130mmHg以上、または下の血圧85mmHg以上
4.空腹時血糖値が110mg/dL
1.に加え、2〜4のうち2項目以上に該当するもの |
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