不眠に悩む人は多い。年をとるとどうしても眠りが浅くなり、朝早く目覚めてしまう。ただ、睡眠時間が短くても、日中の活動に影響が出ないのなら心配いらない。逆にたっぷり寝ているつもりでも、昼間、眠くて仕方のない状態が続くと、深刻な病が隠れている可能性もある。
動物の多くは眠っている間、意識はない。自然界では極めて危険な状況だ。1日中泳ぎ回るイルカや空を飛ぶ渡り鳥は、脳を半分ずつ眠らせながら意識を保つ工夫をしているという。なぜ生き物は眠らなければならないのかは、謎に包まれている。「睡眠中の脳の中で何が起きているのかもよく分かっていない」(大阪バイオサイエンス研究所の裏出良博研究部長)
5人に1人は快適な睡眠ができていない。不眠症といっても、床についても眠れない「入眠障害」、夜中に目が覚める「中途覚醒(かくせい)」、早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」、眠りが浅くなる「熟眠障害」とさまざま。眠れないという本人の自覚がなければ不眠症にはならない。
理想の睡眠時間はあるのだろうか。米国の研究で睡眠時間の影響を6年間追跡調査したところ、6−7時間眠る人の生存率が一番高かった。昔から8時間がベストとも言われている。ただ、個人差が大きく、科学的に最良な睡眠時間を決めることは難しい。
大切なのは睡眠の「量」でなく「質」だ。たっぷり寝ているつもりでも、日中、頭がすっきりせず、仕事に支障が出るようだと睡眠が足りてない可能性が大きい。
眠れなくなったからといって深刻に考えることはない。年をとると眠りが浅く、朝早く目が覚めるのは自然な流れだ。体を休める浅い眠り「レム睡眠」「ノンレム睡眠」が90分周期で繰り返されるが、メリハリのあるリズムを刻む力が加齢に伴って衰えてくる。脳も体もほどよく疲れるとある程度のリズムは戻る。
ただ、日常生活に支障がでる状態が続くと、睡眠時無呼吸症候群や、寝ている間に脚が動いて深く眠れないむずむず症候群、ナルコレプシーなどの病気が隠れているかもしれない。「いくら眠っても熟睡感が得られないのなら専門医に相談して精密検査を受けてほしい」とたなか睡眠クリニック(京都市)の田中俊彦院長はいう。
米国では睡眠不足が原因の居眠り運転や注意力低下の医療事故などで、毎年10万人の人が亡くなっているという。
一晩徹夜するだけで、免疫力が低下するという研究報告もある。睡眠に関係し眠気を引き起こす脳内物質メラトニンは、体のさびを防ぐ強力な抗酸化作用を持つ。寝不足でメラトニンが十分に出ないと血管壁がさびてもろくなり、老化や病気にもつながる。
睡眠時無呼吸症候群で質の良い眠りを確保できていないと、高血圧や心臓病などの発症率が約1割高まるという報告もある。
(鴻知佳子)
−不眠を克服するには−
光・体温・食がポイント
不眠を上手に克服するには、「光」「体温」「食」の3つがキーワードになる。
メラトニンは月明かり程度の明るさ(0.2ルクス)まで暗くなると分泌量が最大になり自然と眠くなる。
24時間営業の店が増えるなど現代社会は明るさのメリハリがなくなったといわれる。眠る直前まで明るい環境にいると、メラトニンの分泌が抑えられて寝付きが悪くなる。田中院長は「寝る3時間前から部屋の照明を抑えるとよい」という。
人間の体温にもリズムがある。入眠の4時間ほど前から体温は次第に下がり、起床2−3時間前から上昇する。寝付きをよくするには体の深部から熱をうまく逃すことだ。
大阪大学の杉田義郎教授は「眠る1時間前にリラックスを兼ねた入浴が効果的」とアドバイスする。39度前後のぬるま湯でゆっくり体を温めると、入浴後に体温が下がり、ぐっすり眠れるようになる。軽い散歩や部屋のなかで体を動かすのもよい。
食事はもともと活動に向けた準備で、体にとっては目覚めの合図になっている。夜遅くに何かを食べると目がさえてくる。
眠気を誘うため寝酒に頼る人も多いだろう。しかし、アルコールは脱水作用があり夜中にトイレに行きたくなる。深くて質のよい眠りを妨げることが多い。
良い睡眠のための工夫
1)毎日決まった時間に起きる
寝る時刻にはこだわらず
2)カフェインは眠る4時間前まで
カフェインの覚醒作用は4〜5時間
3)昼寝は午後3時まで、20〜30分ほどに
夜寝つきにくくならないように
4)夜の明かりの調整できなければサングラスも |
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