秋が深まり、食欲をそそられるこのごろ。でもこの時期は昨年、高齢者施設やホテルなどで集団食中毒(感染性胃腸炎)を引き起こしたノロウイルスの流行期でもある。現在、有効なワクチンや抗ウイルス薬もなく、対症療法しかないため予防が何より大事だ。
ノロウイルスは68年、米国オハイオ州ノーウォークの小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者の便から初めて検出された。手や食べ物を通し口から感染して腸で増殖した後、嘔吐(おうと)・下痢・腹痛などに襲われる。健康な場合は2-3日で回復するが、子どもやお年寄りは脱水症状などで時に重症化することもある。
厚生労働省によると、昨年のノロウイルスによる食中毒は499件(前年比225件増)、患者は2万7616人(同1万8889人増)で、食中毒の主原因の一つ。感染経路は(1)便や嘔吐物から手などを通して(2)感染した人が作る食べ物から(3)ウイルスに汚染された貝類を生あるいは十分に加熱調理しないで食べた--など。培養が難しく、基本的な血清型がわからないためワクチンを作ることができない。
どう防げばいいの?
国立感染症研究所は「予防や感染拡大防止さえすれば、そんなに恐れる必要はない。昨年は知識不足で被害が広がった」と説明する。確実な方法は手洗いの徹底だ。ノロウイルスを扱う同研究所では、手洗いの徹底により、感染した例はない。食べ物からの感染以外は防ぐことができるという。
では、食べ物からの感染は?
調理器具等は洗剤で洗い、塩素系の漂白剤でふくことで殺菌できる。まな板や包丁などは熱湯(85度以上)で1分以上の加熱も有効。(クロルヘキシジンなど有効、次亜塩素酸ナトリウム(ハイター))
それでも、原因がよく分からず嘔吐したり下痢をしたら、水分と栄養の補給が大事だ。スポーツドリンクなどがお勧め。ひどい場合には病院で点滴をしてもらう。下痢止めなどは回復を遅らせることがあるので使わないほうがいい。
感染した場合は拡大防止も大事。感染しても発病しない人や、症状がなくなってからも1週間ほどウイルスを排出し続ける人もいて、自覚症状がないまま周りにまき散らしていることもあるという。「家族の誰かがかかった場合、症状がなくても自分も感染していると考え行動したほうがいい」と同研究所。
最後に一つ朗報。このウイルスは96年以降、2年に1回変異してきたが、今年は2年目に当たる。同研究所は「おそらく免疫ができているので昨年ほどは流行しないのでは」と予想する。でも「多くの人で症状がそれほど重くないことが、逆に感染を広げてきた。人の側の問題も大きい」と指摘。心しよう。
【北川仁士】
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