「血管年齢」を知ることが、患者に脂質目標値を達成させ、
医学的アドバイスに順守させるのに有用

自分の「血管年齢」が55歳だと知る50歳男性は、脂質降下薬の摂取を続ける意欲が強くなることが最新研究で示された。

Shelley Wood
-WebMDの専門ニュースサービスHeartwireより-

患者に自分の循環器系リスクを教えるという簡単な手法が、患者に医学的アドバイスを順守させ、脂質目標値を達成させるのに有効である。ことが最新研究[1]で示された。特に循環器系疾患(CVD)発現のリスクがとても高いが、明らかな症状がまだ出ていない患者には、特に、「血管年齢」という分りやすい概念が心に響くようである。

歯科においても、患者さんのお口の中のお口年齢とか、歯肉年齢、 歯列年齢という表現で、わかりやすい指標を提供し、改善の身近な目標値を患者様に努力目標として、提示することが有効で、WFでも、ORCTにおいてマップのみでなく、ORCTパスポート(患者ノート)を発行し、利用してもらいたい。

「我々はマギル循環器系健康向上プログラムでこのことに長年取り組んできた」と、筆頭著者であるDr Steven A Grover(マギル大学、ケベック州モントリオール)が
heartwireに対して語った。「我々は今から十余年前から、患者自身のリスクの内容と、減量・運動・脂質降下薬服薬によってそれがどれほど変化するのかを患者本人に示してきた。生活習慣にしろ服薬にしろなんらかの治療を、特に血圧やコレステロールといった症状の出ない病態に対して始める必要があり、しかも患者自身は依然としてなにも悪くは感じておらず、医師が病態を変化させてもその違いにまったく気が付かないでいるような場合には、我々の個人的な経験からして、この手法が治療の進捗状況を患者に説明するのに有用であると確信している。」

Grover博士らは、3053例を対象にした「不均一な患者群のコンプライアンスと知識を向上させるための循環器系健康評価(Cardiovascular Health Evaluation to Improve Compliance and
Knowledge Among Uninformed Patients: CHECK-UP)」の結果を『Archives of
Internal Medicine』2007年11月26日号に発表した。

リスク割合と血管年齢
この試験では、230名のプライマリケア医によって登録された3000例以上の患者のうち、12カ月後でも試験に残っていた者は2687例だった。試験開始時に患者全員に対してリスク因子のスクリーニングを行い、それぞれの患者が循環器系疾患を発現する確率の詳細を1枚に記したものをコンピューターで出力した。CVDをすでに有している被験者におけるその確率は、循環器系余命モデルを用いて算出した。CVDを有していない被験者における確率は、フラミンガムのリスク推測値を用いて今後8年間でCVDを発現するリスク割合として、および循環器系余命として表現した。著者らの説明によれば、2つ目の手法(これまでの研究で有効性が検証済み)は患者のリスクを、患者の冠動脈疾患リスクおよび脳卒中リスクを勘案して算出したその患者の余命とカナダ一般人口における同年齢・同性の層の平均余命との差を患者の年齢から引いて算出する「血管年齢」で表現する。次に被験者をランダム化して、従来型の治療をする群と、患者のリスク像の結果を記したコンピューター出力紙を見せる群とに分けた。続く!
(B12カ月間は被験者の脂質と血圧を測定し、3カ月毎に担当医師の下に来させた。各自の脂質目標値に達し、それを維持するようにという促しを患者全員に対して共通して行ったが、介入群のみは診察時に各自のリスク像の出力紙を見せた。

12カ月後の患者の低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールと総コレステロール/高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール比の低下の幅は、両群間でわずかの差しかなかったが、試験開始時の脂質濃度で調整すると試験期間を通じてリスク像を見せられていた患者群のほうが有意に大きかった。常日ごろから自分のリスク像の変化を見せられていた患者は、脂質目標値に達する傾向も強かった。このことは、試験開始時の脂質像がもっとも悪かった層で特に顕著だった。

Grover博士によれば、血管年齢は脂質目標値の達成の最も強い予測因子の一つであり、フラミンガムリスクよりも強力である。「確定的なことは言えないが、最も強く作用したのは年齢差であった。つまり血管年齢が実年齢からどのくらい離れているか、だ。これには量反応関係があるようであり、年齢差が大きいほど、リスク像への影響が大きかった。しかしフラミンガムリスクが高・中・低の場合を調べても、その影響は小さかった。実際に患者のモチベーションになったのは、血管年齢の一行だけのようだった。」

循環器系リスクを理解する
このCHECK-UP試験に関連する2つの解説記事が、循環器系リスクについてのコミュニケーションに伴う微妙な問題について考察している。Dr Rod Jacksonと Sue Wells(オークランド大学、ニュージーランド)[2]によれば、リスク因子ではなくリスクを管理するという考え方が医師にあまり理解されておらず、患者を置き去りにしている。「医師のほとんどはいまだに、高血圧と高脂血症の診断と治療のやり方を教わっているが、リスクに基づいた手法では、確立してはいるが臨床的にはあまり意味のないそうした診断はしなくていい。また、治療法のほとんどは個々のリスク因子を標的にしたものであるため、血圧や血中脂質濃度の測定・治療を中心にしないというのは医師にとって難しい。」

しかし、大きな障害は時間である。CHECK-UP試験において定期的に循環器系リスクを計算して患者にそれを伝えるのに振り分けられた時間は、多くの多忙な医師にとってはとても捻出できないものだ。リスク計算と患者の診療記録とを結びつけるコンピューターシステムのようなものがあれば、その作業を手早く済ませられる。この解説記事の著者によれば、ニュージーランドではPREDICTというコンピューターシステムがすでに45,000例の患者を対象にこれを実現している。

Grover博士らの血管年齢の考え方は「予測された循環器系リスクを患者と医師にとって意味のあるものに移し替える基準として正しいことが証明されるだろう」し、さらに詳しく探求すべきであると、Jackson、Wells両博士は述べている。

2つ目の解説記事[3]ではDr Charles B Eaton(ブラウン大学、ロードアイランド州ポータケット)が、CHECK-UP試験は定期的な外来診療の意義を間接的に検証するものであることを指摘している。実際、2つの試験群の間での試験主要評価項目の差が、著者らが報告した値よりも大きくならなかったのは、非介入群の患者でも医師と定期的に会うことで治療目標の達成が促進されることが理由である可能性がある。しかしEaton博士はこう語っている。「こうした循環器系リスクが高い患者のうち、1年後に各自の脂質目標に達した者が45%から66%しかいなかった。すなわち大きな治療のギャップがまだ存在している。」

加齢した心臓を願う
そうしたギャップがあることを認めつつ、Grover博士はheartwireに対して、今回の試験は正しい方向性に向けた一歩に過ぎないと語った。同博士は、一番重要なのは患者も取り込んだ新しいやり方を発見することだと信じている。「臨床試験ではよく効く薬でも、実生活の中ではほとんど同じようには作用しないことを我々は知っている。だから明らかに、無症状で慢性的な病態の治療のパラダイムは、現在我々が行なっていることを乗り越えたものでなければならない」と同博士は言う。「長期治療の状況では、患者自身が専門家になっていく??つまり、何が具合をよくし、何が具合を悪くさせるのかを知っている。無症状の病態について話す場合は、患者はどういう行動なら脂質のコントロールができ、どういう行動なら脂質をコントロールできなくなるかを知っている。患者を引き込むことができれば、知識はとても強力な道具になりうることを利用できる。」

実際、血管年齢の考え方は医師をも深く共鳴させるとGrover博士は考えている。同博士のグループは、過去10年にわたって、カナダ循環器学会の展示場で血管年齢測定を行っている。「医療専門家が毎年毎年、自分の数値がどのように変化したかを確認しに再度やって来る。それには驚いた」と博士はheartwireに語った。「私はずっと、医療専門家たちはどのように操作するのかに興味があって、本当は面白くないのだと思っていた。しかしそれはまったく当てはまらなかった。彼らは測定が目的で列を作るのだ。」

CHECK-UP試験はPfizer社が後援している。著者らの一部は、Pfizer社、Sanofi Aventis社、AstraZeneca社、Orynx社と金銭的利害関係があることを開示して いる。

Jackson、Wells、Eatonの各博士の開示情報では、関連する金銭的利害関係はない。

2007.11.28 Medscapeより引用