列車内での携帯電話は心臓ペースメーカーの
誤作動にどれくらい影響するのですか

お答えします’07:列車内での携帯電話は心臓ペースメーカーの誤作動に…

◆列車内での携帯電話は心臓ペースメーカーの誤作動にどれくらい影響するのですか。通話でなくメールなどなら、よいのでしょうか?=大阪府の女性ほか

◇15センチ接近で誤作動も--通話以外でも電磁波影響、予防措置と思いやり必要

■22センチ以上離す

「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」。こうしたお願いアナウンスが列車内でよく流れるが、乗客が電源を切る姿はあまり見られない。なかには黙々とゲームに興じる人さえいる。これって許されるのか?

総務省は00年から、携帯電話など電磁波の医療機器への影響を調べてきた。これまでに200機種を超える携帯電話で各種心臓ペースメーカーに与える影響を実験した。

その結果、携帯電話の出力を最大に上げてペースメーカーに近づけた場合、最大15センチでわずかに誤作動を起こす機種がいくつかあった。同省は電磁波の影響を受けないよう、「22センチ程度以上離す」との指針を設けている。

「たとえ優先席でも通話していなければ大丈夫では?」との声もあるが、これは間違いだ。携帯電話は位置を知らせるため、基地局と電波のやり取りをしている。通話やメールはもちろん、「通話していなくても、電磁波は出ていると考えた方がよい」(同省電波環境課)という。

列車の中で携帯を使うと電磁波が列車の壁同士で反射し合って、影響が増幅されるのでは、との声もある。スーパーコンピューターを使って検証した野島俊雄・北海道大学大学院情報科学研究科教授は「理屈上では電磁波は反射するが、現実には反射のたびに列車の窓からもれたり、人が吸収するため、1秒もたたないうちに電磁波の影響はゼロになることが分かった」と指摘、ペースメーカーをつけた人が列車に入るだけで誤作動を起こすようなことはないという。

■進む技術開発

いまのところ、列車内で携帯電話による誤作動の事故はない。その背景には技術開発も大きい。

携帯電話は新しい機種ほど小さい出力で効率よく通話できるよう技術開発が進んだ。このため、流通している携帯電話の約7-8割はペースメーカーにくっつけても、誤作動を起こさないほどになっているという。

また、ペースメーカーなどを輸入販売する日本メドトロニックの豊島健・テクニカルフェロー(日本不整脈学会・電磁波干渉不具合検討委員会委員長)は「いまは多くのペースメーカーに電磁波の影響を低減させるフィルターが装着されているため、携帯電話を心配する必要はほとんどない」と話す。

ただ豊島氏は「それでも優先席付近では電源を切るくらいの思いやりは必要だ」と話す。JR東日本広報部も「事故が起きてからでは遅いので、予防措置の観点から、電源を切っていただくよう協力をお願いしている」と話す。

やはり優先席付近では電源を切るか、携帯をもっていたら優先席には座らないマナーは守りたい。【小島正美】

◇50万人が使用

ペースメーカーは電気刺激を生み出す電気回路と電池、心臓に電気刺激を伝える電極(リード線)からできている。鎖骨のある皮膚の下に埋め込まれ、心拍を速めたり、遅くしたりする。不整脈の患者など約50万人が使っている。国内では製造されておらず、すべて輸入品だ。

不整脈の患者などに使われるペースメーカー(電子回路と電極)。真ん中にある10円玉より大きい



2007.12.27 記事提供 毎日新聞社