このところ生物学的製剤の開発が活発な関節リウマチ(RA)の薬物治療。様々な選択肢がある中で、個々の患者に対して、どの薬をどう使えばよいのか、迷うこともあるのではないでしょうか。
ちなみに日本の診療ガイドラインに当たる『関節リウマチの診療マニュアル(改訂版)』(日本リウマチ財団、2004年、詳細はこちら )では、「RAと診断したら、なるべく早期に十分に有効と考えられる抗リウマチ薬を投与することが必要とのコンセンサスが得られている」という表現にとどまっています。米国リウマチ学会の診療ガイドライン[1]を見ても、「新規にRAと診断された患者の多くに対して、診断から3カ月以内に抗リウマチ薬(DMARDs)を始めるべき」と書かれているものの、具体的に薬剤を特定しているわけではありません。そこで今回は、各種DMARDsを比較検討したシステマティック・レビューに注目しました。
Donahue KE, Gartlehner G, Jonas DE, Lux LJ, Thieda P, Jonas BL et al.
Systematic review: comparative effectiveness and harms of disease-modifying
medications for rheumatoid arthritis. Ann Intern Med 2008; 148: 124-34.
(2008年1月15日号)
【診療上の疑問・課題:アウトカムはあえて絞らず幅広く検討】
RAの症状の軽減、関節機能の向上、X線上の症状進行の予防に、どのDMARDsが最も効果があるかを検討しました。多様な研究があることから、アウトカムはあえて限定せず幅広くとらえていました。
【研究デザイン:害の検討には効果の検討より幅広い研究デザインを含める】
検討の対象になった薬は、ステロイド薬、メトトレキサート(日本での商品名:リウマトレックス)、レフルノミド(アラバ)、スルファサラジン(日本での一般名:サラゾスルファピリジン、日本での商品名:アザルフィジンほか)、ヒドロキシクロロキン(日本未承認)、エタネルセプト(エンブレル)、インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(日本未承認)、アバタセプト(日本未承認)、アナキンラ(日本未承認)、リツキシマブ(リツキサン、ただし日本ではRAは適応外)の11種類でした。
薬の効果に関する検討には、薬剤同士を直接比較したランダム化比較試験(RCT)および前向きコホート研究を対象としました。直接比較による研究が見付からなかった場合には、プラセボとの比較試験を用いて薬剤同士を間接的に比較したメタアナリシスも含めました。一方、害に関する検討には、上記に加え、後ろ向き観察研究やプラセボとの比較試験も含めていました。害に関して検討する際に、効果よりも幅広い研究デザインを対象としている点は評価できると思います。また、100人以上を対象とし、12週以上観察した研究のみを選択することにより、論文の質に配慮していました。
【文献検索:2007年9月まで含める。未発表の研究も検索】
検索に用いた文献データベースは、MEDLINE、EMBASE、コクランライブラリーとInternational
Pharmaceutical Abstracts(IPA)の計4種類。検索期間は1980年から2007年9月までですから、ごく最新の研究まで含まれていることになります。ただし、言語は英語のみでした。これらの文献データベースに加え、総説論文の引用文献リストや、米国食品医薬品局(FDA)に申請された未発表データも検索していました。
対象とする論文を同定する過程は、システマティック・レビューのお約束であるQUOROM声明[2]にのっとってきちんと提示されており、それによると、抽出された2395本の論文から、最終的に143本がシステマティック・レビューの対象となりました。
【個々の研究のクオリティ:既存の評価基準を準用】
各論文からのデータの抽出および要約は、複数の研究者が行い、別の上級の研究者がチェックするという、よくある方法で行われていました。RCTの質の評価には、米国および英国で一般的に使用されている指標が用いられました。観察研究の質の評価には、非ランダム化比較試験の評価指標を準用したものを用いていました。
【解析:メタアナリシスは実施せず。エビデンスの強さを3段階に分類】
様々な薬についての論文があるため、メタアナリシスは行わず、主要な結果を列記しました。それぞれの結果について、エビデンスの強さを3段階(高、中、低)に分類していました。
【結果:どれか1つの薬が特に優れているとはいえない】
結果は一覧表にして提示されていたので、ここで詳しく紹介はできませんが、同じ号に掲載されたエディトリアル[3]を引用すれば、
・ある1つの合成DMARDs(メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン)が他より有効であるとはいえない。
・合成DMARDsの単剤療法で改善しない患者に対しては、併用療法が有効である可能性がある。
・抗TNF抗体薬(インフリキシマブなど)とメトトレキサートの比較(いずれも単剤療法)では、臨床的反応性は同程度だが、X線上のアウトカムは抗TNF抗体薬の方が良好。
・メトトレキサートと生物学的製剤との併用療法は、メトトレキサートまたは生物学的製剤の単剤療法に比べて臨床上のアウトカムが良好。
・短期の副作用に関しては大きな差は見られない。
とまとめることができると思います。ただし、エビデンスの強さはいずれも低〜中レベルでした。
次回は、引き続きこの論文に関して、臨床への適用、経済性、なぜ薬剤同士で直接比較する研究が少ないのかなどについて考察したいと思います。
【参考文献】
1)American College of Rheumatology Subcommittee on Rheumatoid Arthritis
Guidelines. Guidelines for the management of rheumatoid arthritis: 2002
update. Arthritis Rheum 2002; 46: 328-46. (こちらで入手できる)
2)Moher D, Cook DJ, Eastwood S, Olkin I, Rennie D, Stroup DF. Improving the
quality of reports of meta-analyses of randomised controlled trials: the
QUOROM statement. Lancet 1999; 354: 1896-1900.
3)Siegel J. Comparative effectiveness of treatments for rheumatoid
arthritis. Ann Intern Med 2008; 148: 162-3.
今回も、前回に引き続き、抗リウマチ薬(DMARDs)を比較検討した論文に関して、臨床への適用、経済性、なぜ薬剤同士で直接比較する研究が少ないのかなどについて考察したいと思います。
Donahue KE, Gartlehner G, Jonas DE, Lux LJ, Thieda P, Jonas BL et al.
Systematic review: comparative effectiveness and harms of disease-modifying
medications for rheumatoid arthritis. Ann Intern Med 2008; 148: 124-34.
(2008年1月15日号)
【臨床への適用:従来の知見とは矛盾しない】
検討した143の論文のうち、薬剤同士を直接比較したRCTは42本しかなく、エビデンスの強さの点からも、それほど決定的なことが言えるまでは至りませんでした。しかし、全体としては、従来言われていることと大きく矛盾しないのではないかと思います。エディトリアル[1]でも、今回の結果は米国リウマチ学会のガイドラインとおおよそ一致すると述べていました。
今回検討された薬剤の中には、現時点で日本未承認の薬も多く含まれているため、臨床への適用という点では限界があります。もっとも、これから承認される薬が、既存の薬より必ず優れているとは限りません。例えばアナキンラについては、抗TNF抗体薬より反応率が低いという研究結果がこの論文に使われていますし、英国NICE(National Institute for Health and Clinical
Excellence)の医療技術評価(こちら)において、臨床的有効性および費用対効果を検討した結果、アナキンラは通常のRA治療には使用すべきでないとされています。
【その他の検討項目:長期で使用する薬だけに経済性も重要】
RA治療は長年に及ぶため、患者にとっては費用負担も大きな問題です。この論文では、費用についての記載はありませんでしたが、前述の『診療マニュアル』には、RAの主な治療薬の費用が掲載されていました。
それによれば、1年間に必要な薬の費用は、メトトレキサート(リウマトレックス)4万3368〜8万6736円、サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN)6万5554円、レフルノミド(アラバ)12万3041円、インフリキシマブ(レミケード)135万8280円(1回2バイアル年6回の場合)だそうです。どの薬を用いるかで、費用もずいぶん違うんですね。
【診療への影響:なぜ直接比較する研究が少ないのか】
RAのように、異なる複数の薬が使用できる場合、臨床現場では「どの薬を使えばよいのか?」が問題になります。今回のシステマティック・レビューも、それを知るために行われました。しかし、薬剤同士を直接比較した論文が少ないという壁にぶち当たってしまいました。
なぜ薬剤同士を直接比較する論文が少ないのかについて、薬理学の研究所として世界的に知られるイタリアのマリオ・ネグリ研究所長のシルビオ・ガラティーニ氏が、BMJ誌に興味深い論考を寄せていました[2]。
それによると、薬に関する臨床試験は、製薬企業が規制当局の承認を得るために行うことが多く(要するに治験)、承認には当該の薬の有効性および安全性が証明できれば良いことから、企業側にとって、薬剤同士を直接比較する研究を行う必要性が乏しいことを挙げていました。その結果、プラセボを対照とする研究が多くなりすぎてしまい、薬剤同士を直接比較する場合でも、既存の薬より優れていることを検証するための試験ではなく、多くは同等性あるいは非劣性(劣ってはいないことを示す)試験となっていると指摘していました。
イタリアがユニークなのは、製薬企業とは独立に、薬剤同士を比較する研究を推進するための資金を、企業の販促費の一部を徴収する形で確保している点です。この資金を使って、製薬企業が単独では行いにくい、まれな病気に対するオーファンドラッグの開発、薬剤同士の直接比較、アウトカム研究などを支援しているとのことです(文献4に対するrapid responseより、こちらを参照。日本語による文献3も参照)。面白いアイデアだと思いました。
【著者の利益相反:あり】
著者の一人がAbbott社から謝礼を受け取っていました。Abbott社はアダリムマブを開発しています。
【参考文献】
1)Siegel J. Comparative effectiveness of treatments for rheumatoid arthritis. Ann Intern Med 2008; 148: 162-3.
2)Garattini S, Bertele V. How can we regulate medicines better? BMJ 2007; 335: 803-5.
3)インデペンデントな医薬品研究の推進−イタリア薬務局が始めた新たな試み−. TIP正しい治療と薬の情報. 2007; 22: 138-9. |