人やマウスの遺伝情報に含まれ、役に立たない「ごみ」のように考えられていた短いDNA配列が、脳の正常な発達に重要な役割を担っていることを、岡田典弘(おかだ・のりひろ)東京工業大教授らのチームがマウスの実験で突き止め、米科学アカデミー紀要電子版に4日発表した。
同様の配列は爬虫(はちゅう)類や鳥類にもあるが、働いているのは哺乳(ほにゅう)類だけとみられる。チームは、進化の過程で哺乳類が高度な脳を獲得したのは、このDNA配列の作用ではないかとみている。
チームは進化の過程で生物の遺伝情報に入り込む「SINE」と呼ばれる短いDNA配列に着目。魚類や両生類にはない特定のSINEを、爬虫類より高度な生物が持っていることをまず見つけた。SINEの配列は、爬虫類や鳥類では進化に伴って変化したのに、哺乳類ではもとの配列がよく保存されていた。
このためチームは、SINEが哺乳類にとって特に重要な機能を持つのではないかと仮説を立て、SINEが働くと細胞が発色するように遺伝子操作したマウスを作製して実験した。
その結果、SINEが胎児の脳の神経回路を正しく配置する遺伝子や、大脳皮質を形作る遺伝子を働かせていることを突き止めた。同様の機能は、鳥類のSINEにはなかった。
チームは「SINEがこうした機能を獲得したことが、哺乳類特有の高度な脳の形成につながった」と推測している。
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