BMJ誌から
赤身肉を食べると血圧が上がる
非ヘム鉄の摂取は血圧を下げるが、ヘム鉄は上げる?
大西 淳子=医学ジャーナリスト
食物やサプリメントを介した鉄分の摂取と血圧の関係を調べる疫学研究の結果、総鉄と非ヘム鉄の摂取量が多い人の血圧は有意に低いことが分かった。一方、ヘム鉄の主な供給源である赤身肉の摂取は、血圧を有意に上昇させることが示され。英国Imperial College LondonのIoanna Tzoulaki氏らの報告で、詳細はBMJ誌2008年7月26日号に掲載された。
1981年の「iron-heart」仮説の提起を期に、鉄の摂取と冠疾患の関係に注目が集まった。男性と閉経前の女性の冠疾患リスクの差を鉄蓄積量の違いにより説明しようとしたこの仮説を受けて、複数の疫学研究やメタ分析が行われたが、一貫した結果は得られていない。
ヘム鉄と非ヘム鉄では代謝経路と吸収効率が異なるため、これらを分けて分析しなければ明確な結果は得られないと考えた著者らは、食物を介した鉄の摂取(総鉄、ヘム鉄、非ヘム鉄)、鉄を含むサプリメント、そしてヘム鉄の主な供給源である赤身肉をそれぞれ摂取した場合の血圧との関係を調べる疫学研究を行うことにした。
分析対象は、主要栄養素、微量栄養素と血圧の関係を調べる国際共同研究INTERMAPに参加した中国3集団、日本4集団、アメリカ8集団、イギリス2集団の中から選出した40〜59歳の男女4680人(2359人が男性)。40〜49歳の男性と女性、50〜59歳の男性と女性、という4群がそれぞれ同数になるよう、集団から対象者を選んだ。
被験者は、当初2日間連続して受診し、約3週間後に再び2日連続で受診。それぞれ2回ずつ血圧測定を行い、計8回の測定値の平均を求めた。
受診時に24時間想起式の聞き取り調査を行い、飲み物やサプリメントを含む過去24時間の食物摂取について詳細に調査し、鉄を含む83の栄養素について情報を得た。尿検査も行い、ナトリウム、カリウム、クレアチニンのレベルを測定した。
BMIとエネルギー摂取量の平均値は、米国が高く、日本と中国は低かった。摂取熱量1000kcal=4.2MJ当たりの鉄摂取量の平均値が大きかったのは米国と中国(いずれも7.8mg/4.2MJ)、英国は6.2mg/4.2MJ、日本は5.3mg/MJだった。
米英は鉄摂取量の約6%、日本は9%、中国は3%がヘム鉄だった。日本と中国のヘム鉄源は主に魚で、それぞれヘム鉄摂取量の61%と88%を占めた。英米では肉が供給源の中心で、英国ではヘム鉄の90%、米国では87%を肉から摂取していた。
非ヘム鉄源は、日中では野菜と豆類、英米では豆類とシリアルだった。
ヘム鉄摂取量と正の相関を示したのは、総蛋白質(相関係数r=0.53)、動物性蛋白質(r=0.63)の摂取量。非ヘム鉄の摂取量と正の相関を示したのは、植物性蛋白質(r=0.47)、繊維(r=0.54)、リン(r=0.47)、カルシウム(r=0.42)、マグネシウム(r=0.59)、24時間尿中カリウム排泄量(r=0.50)だった。
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