みそ汁の効用 毎日1杯、腸をスッキリ
ヘルシーリポート:みそ汁の効用 毎日1杯、腸をスッキリ
◇発がん抑制、糖尿病にも効果的
朝食にみそ汁を加えた和食を取る人が少なくなっている。だが、もう一度、みそ汁の有用性を再認識したい。みそに含まれる褐色の色素には腸内環境の改善や発がん抑制、コレステロールの低下など、いろいろな効果があることが分かってきた。【小島正美】
■褐色のメラノイジン
どのみそも、濃淡の差はあれ、褐色だ。しょうゆも濃い褐色。どちらにも褐色の色素が含まれているからだ。この褐色の色素を総称して「メラノイジン」という。
メラノイジンは複雑な反応を経てできる高分子の化合物。みその香りがよいのは、この反応過程でできる香り物質のおかげだ。
では、メラノイジンはどんな働きをしているのだろうか。
メラノイジンの生理機能の研究などで知られ、女子栄養大学栄養学部長を務める五明紀春(ごみょうとしはる)教授(食品栄養学)は約20年前、ラットにメラノイジンを混ぜたえさを与え、大腸にいる乳酸菌の変化を調べた。その結果、善玉の乳酸菌が数十倍に増えることを突き止め、メラノイジンが腸内環境を改善する可能性があることを発表した。
■コレステロール低下
この研究をきっかけに五明教授は次々に他の生理機能も研究していった。これまでに他の研究成果も含め、高血圧や高血糖、がんなど生活習慣病の予防効果が期待できることが分かってきた。
例えば、メラノイジンを添加したえさをラットに与えた実験では、メラノイジンの摂取量が多いほど血液中のコレステロールが下がることが分かった。また、食物繊維と似た働きがあり、腸の運動を活発にすることも分かっている。
ラットを2群に分け、一方は砂糖水だけ、もう一方はメラノイジンを溶かした砂糖水を与えて比較したところ、メラノイジン入りの砂糖水では血糖値の変動が抑えられることが分かった。これが耐糖能の改善だ。
血糖値の変動が抑えられたメカニズムについて、五明教授は「でんぷんなど、糖を分解する消化酵素(グルコシダーゼ)の働きをメラノイジンが抑制したのでは」という。
■消化酵素の働き抑え
メラノイジンは他の消化酵素にも作用する。膵臓(すいぞう)でつくられる消化酵素のひとつにトリプシンがあるが、このトリプシンの働きも抑制する。
実は、トリプシンの働きを抑えるトリプシン活性阻害物質(トリプシン・インヒビター)はもともと大豆にも含まれているため、発酵・熟成してできるみそやしょうゆにも、このトリプシン活性阻害物質が残っている。
つまり、みそ、しょうゆには、トリプシンの働きを抑える物質として、メラノイジンとトリプシン活性阻害物質の両方が含まれている。
このことが糖尿病の改善につながることと関係する。
その理由について、五明教授は「メラノイジンなどの摂取でトリプシンの働きが抑えられると、その不足を補うために、さらに膵臓からトリプシンが分泌されることが分かっている。このとき、膵臓でインスリンの分泌も同時に刺激されるのではないかと予想される」という。つまり、みそによるトリプシン活性阻害作用がインスリンの分泌を促し、糖尿病の改善が期待できるというわけだ。
■熟成期間が長いほど
みそ汁は塩分を含むため、血圧や胃がんの防止にはマイナスに見られがちだ。しかし、渡辺敦光(ひろみつ)・広島大学名誉教授らの動物実験による研究で、そうではないことが分かってきた。
まずはみそのがん抑制実験。ラットを5群に分け、がんを引き起こす物質を加えた飲み水とともに5種類のえさを与え、がん発生率を比較した。
えさは(1)みそ5%入り(2)みそ10%入り(3)食塩1・1%入り((1)と同じ塩分濃度)(4)食塩2・2%入り((2)と同じ塩分濃度)(5)通常--の5種類。
胃がんの発生率は(4)が68%と最も高かったが、同じ塩分濃度でも、みその形で与えた(2)は45%と低く、通常のえさのグループと有意差はなかった。がんの大きさでも、みそ入りのえさを食べたグループは小さかった。
渡辺名誉教授によると、熟成期間の長いみそほど胃がんの抑制効果は高いという。
■バランスよい一品
血圧への影響はどうか。食塩に敏感に反応して血圧が上がりやすいラットを使った実験では、食塩だけだと血圧は上昇するが、えさにみそを加えた群では、みそに食塩が含まれているにもかかわらず、血圧の上昇が抑えられた。渡辺名誉教授は「ラット実験とはいえ、動物で起きていることは多かれ少なかれ、人でも生じるのではないか」と話す。
また、神田晃・岡山大学教授らの疫学調査で、みそ汁を毎日2杯以上飲む人では高血圧が抑えられたという報告もある。真夏は汗をかき、適度な塩分と水分の補給が必要な季節。その意味でも、みそ汁の摂取の意義は高い。
野菜や海藻類をたっぷりと使ったみそ汁はバランスのよい食事にふさわしい一品といえそうだ。
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