「糖質ゼロ」酒類も適量で アルコール自体のカロリー高く 糖尿病患者、飲み過ぎ注意
食事のカロリーに気をつけなければならない糖尿病の患者にとって、アルコール飲料は注意が必要だ。アルコール自体にエネルギー(1グラム当たり7・1キロカロリー)があり、ビール1缶(350ミリリットル)で約150キロカロリーと、茶わん1杯分のご飯を食べたのに近い。だが、アルコール好きの人が禁酒、節酒をすることは、なかなか難しい。このため、店頭に並んだ「糖質ゼロ」のアルコール飲料に注目が集まる。糖尿病患者の上手なお酒との付き合い方をまとめた。【河内敏康、永山悦子】
◆思い込みで
「糖質ゼロしか飲んでいないから、大丈夫ですよ」
関西電力病院(大阪市)を訪れた60代男性から、北谷直美・栄養管理室長は打ち明けられた。だが、過去1-2カ月の血糖値の平均的な状態を示す指標「ヘモグロビンA1c」は10%以上(正常値は4・3-5・8%)と非常に高かった。「『糖質ゼロ』はカロリーがないから、いくら飲んでもいい」と思い込み、1日3-5リットルも発泡酒や第3のビールを飲む日があったという。
北谷さんが「アルコールにはエネルギーがある。糖質がないとしても、かなりのカロリーになりますよ」と説明すると、驚く患者が多いという。アルコール好きの患者は「飲みたい」という欲求を満たすため、「カロリーがない(低い)」ことを飲む理由にしたがる傾向が強い。
◆影響は大差なし
発泡酒などでは、栄養表示基準に基づき、100ミリリットル中の糖質が0・5グラム未満の場合、「糖質ゼロ」と表示することが認められている。一般にビール1缶(350ミリリットル)に含まれる糖質は12-14グラム。エネルギーに換算すると、50キロカロリー前後でしかない。「よく『焼酎よりも糖質が多い日本酒の方が糖尿病に悪い』と言われている。だが、いずれの飲料のカロリーもアルコールが占める割合が大きく、糖尿病への影響に違いは小さい。同じように、糖質の有無がもたらす影響も大差はないと考えるべきだ」と北谷さんは訴える。
◆膵臓機能低下も
アルコール飲料はエネルギーが大きいだけではなく、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓(すいぞう)の機能を低下させることが知られている。また、米国で約5000人の男性を対象に実施した調査では、1日にビール(約360ミリリットル)を3本以上、もしくはそれに相当するアルコール飲料を飲むと、糖尿病を発症する危険性は、ほとんど飲まない場合より50%も高かった。
その一方で、少量のアルコールが、インスリンが効きにくくなって血糖値が上がりやすくなる状態(インスリン抵抗性)を改善し、動脈硬化の悪化を抑制する働きがあると報告した欧米の研究者もいる。これに対し、「糖尿病食事療法指導のてびき」(日本糖尿病学会編)は「日本人での分析結果は少ない。現在、日本人の糖尿病患者に積極的に飲酒を許容する根拠はない」との立場を取る。
◆疲労回復など効果期待
では、糖尿病患者は、アルコール飲料とどう付き合うべきか。
京都大病院の幣(しで)憲一郎・栄養管理室長は「適度な飲酒は、疲労回復やストレス解消などの効果が期待できる。気分転換できれば、食事療法の継続を後押しする。一定の条件のもとで適量(160キロカロリー程度)であれば、認めてもいい」と話す。その条件とは(1)長期間、血糖値をきちんと抑えられる(2)肝臓と膵臓の機能が正常で脂質代謝の異常がない(3)糖尿病合併症がないか、あっても軽症(4)高血圧などの慢性疾患がない(5)糖尿病治療のための薬物投与を受けていない(6)飲み始めても適量でやめられる--の六つだ。
幣室長は「飲酒で『余計なカロリーを取っている』という自覚を持ってほしい。飲むと酔いが回って条件が守れないような人には禁酒を求めたい」と話す。
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