咀嚼:よくかむ習慣、給食から 肥満児の体重減など効果
◇装置で回数測定し記録/歯ごたえある食材多用
軟らかい食べ物を取るようになり、現代人は咀嚼(そしゃく)回数が激減している。よくかむことは虫歯や肥満の予防につながる。子供のころからよくかんで食べる習慣を身に着けさせようと、学校給食の現場で見直しが始まっている。【足立旬子】
「いただきます」。児童がU字形のセンサーをあごに装着し、給食を食べ始めた。かむ回数に合わせて、液晶画面にその数字が上乗せされる。3月上旬、長野県喬木(たかぎ)村の喬木第二小6年生の教室で、養護教諭の安富和子さん(54)が児童の間を回り、「1口30回」かむよう話しかけていた。
装置は咀嚼回数をカウントする「かみかみセンサー」。安富さんと県飯田工業高の高田直人教諭(45)が1年かけて開発し、昨年7月に商品化された。
この日のメニューは、ドライカレー、シーフードサラダ、ミートボールなど。10分で食べ終える児童もいれば、20分かけてゆっくり食べる児童も。カウンターの記録は700-1000回と幅広い。食べ終わると、給食でかかった時間と回数を教室の壁に張った紙に書きこんでいた。
児童からは「かみかみセンサーを着けて食べると楽しい」「ご飯が甘く感じられるようになった」などの声が上がった。
■食べ方に異変
安富さんが子供の食べ方がおかしいと感じたのは8年前。前任の赤穂南小(駒ケ根市)で、給食時間に前歯でかんでもなかなかのみ込めず、いつまでも、もぐもぐとしていた。
かみ合わせの力である咬(こう)合(ごう)力は一般に体重と同じぐらいとされるが、2年生で最も弱い児童は13・6キロしかなかった。この児童の体重は25キロだった。
かむという行為の変化は、長野県の子供に限ったことではない。日本咀嚼学会の斎藤滋・元理事長の調査では、弥生時代に生きた大人は1回の食事に51分をかけて3990回かんでいたと推計されている。一方、現代人の食事時間は11分、咀嚼回数は620回と5分の1-6分の1に激減した。
■男子、特に早食い
かむ回数を計測したいと考えた安富さんらはセンサーを開発し、2-6年生264人の咀嚼回数と食事時間を調査した。かむ回数は平均1376回で、24・6分かけて食べていた。
咀嚼回数は学年間でほとんど差はなかったが、食べる時間は高学年ほど早く、6年生は2年生に比べて約4分短かった。発育途中の低学年は食事に時間がかかるためだ。男子はかむ回数が女子より100回少ない約1300回、時間は2分短い23・6分だった。
肥満児とそうでない児童を比べると、肥満児の食事時間が約3分早かった。肥満児は満腹と感じる前にご飯をかきこんでしまうのが理由だ。
安富さんは咬合力を強化するため、大豆をいって10-15粒を30日間、2年生に毎日食べさせた。その結果、当初より約10キロ増の44・2キロに上昇した。
給食メニューも同時に見直した。歯応えのあるゴボウやニンジンなどを入れた「カミカミサラダ」を考案した。野菜を厚く切り、豆もたくさん使う。
■家でも実践して
授業や行事で十分な給食時間を確保するのは難しいが、東京都足立区教育委員会は、1月の全国学校給食週間に区内のすべての小中学校109校で給食時間を従来より5分延長した。食べ残し(重量ベース)はその前より小学校で平均3%、中学校で4%減ったという。
区教委担当者は「時間を長くしたことに加え、教師が残さないよう声かけしたことも影響した」と分析する。
安富さんの調査では、センサーを学校だけでなく家庭で装着した肥満児童は早食いをやめ、約5カ月で体重が3キロ減った。逆に、給食でかむ回数も時間も倍に増えた肥満児童がいたが、体重は減らなかった。家庭では自由に食べていた。
「学校、家庭双方での取り組みが大切。ゆっくりと時間をかけ会話を楽しみながら食べてほしい」。安富さんの願いだ。
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