糖尿病の診断基準HbA1cをWHOが採用?

WHO 今年中にも新基準を公表へ HbA1cを糖尿病の診断基準に カットオフ値は糖尿病網膜症の発症率を検討

世界保健機関(WHO)が糖尿病の診断基準に、HbA1c値を導入する方向で議論を進めていることが明らかになった。カットオフ値は、HbA1c値と糖尿病網膜症の発症率との相関を検討し、定める方針。空腹時血糖値をはじめとした従来の診断基準では、持続性高血糖を十分に示していないと判断した。今年中にも、新たな診断基準を公表する。

 WHOがもともと1998年に定めた糖尿病の診断基準は、<1>空腹時血糖値≧126mg/dL<2>75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)2時間値≧200mg/dL<3>糖尿病の症状と随時血糖値≧200mg/dL-以上のいずれかの場合とされている。
  改訂に際し、WHOでは各国の糖尿病の専門家を一堂に集めた「エキスパート・コンサルテーション・ミーティング」を3月28-30日に開催し、糖尿病の診断基準をめぐる検討を行った。
  日本の代表として会議に出席した日本糖尿病学会の門脇孝理事長(東京大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)は本紙の取材に応じ、「従来の診断基準とともに、HbA1cを取り入れようという意見が相当強かった」と述べた。
  これまでもHbA1cの有用性は指摘されてきたが、測定法の違いや国家間での測定値のバラツキがあることが国際的な指標として用いる上での課題となっていたという。しかし、2007年から国際標準化が進み、“バイアス”が解決されつつあることから、検討をスタートしたという。

持続的な高血糖示す「一番良い指標」

 HbA1cは、採血時から過去1、2カ月間の平均血糖値を反映する指標。インスリン作用の不足を示す“持続的な高血糖”を示すのに「今、考えられる一番良い指標」と門脇氏は話す。さらに、1人の患者が異なるタイミングで検査を受けた際の再現性も高いというメリットもある。
  これに対し、従来指標として用いられてきた空腹時血糖値や75gOGTTは、空腹時やブドウ糖を負荷した特殊な条件下で測定されていることから、「24時間の血糖値を反映する指標にはなりにくい」(門脇氏)。加えて、検査前何日かの食事内容の影響を受けることから、再現性も懸念されてきた。
  すでに治療目標としては活用されているHbA1cが診断基準に加わることで、「診断の根拠から治療のターゲットまで一貫しているし、空腹時の採血も必要ない。プライマリケア医にとっても患者さんにとってもメリットは大きい」と臨床上のメリットも強調する。
  一方で、HbA1cを指標として用いる上での課題について門脇氏は「赤血球寿命が短縮している病態には使えない」と指摘する。具体的には、溶血性貧血や肝硬変、出血があるケースなどだ。「アフリカで発生しているマラリアが溶血性貧血を起こすことから、今回の会議でも議題にあがった」と門脇氏。これらのケースでは、従来の空腹時血糖値や75gOGTTでの診断が必要になるという。

26日に診断基準検討委員会が初会合

 日本糖尿病学会の診断基準検討委員会では、このような世界の流れを踏まえ、26日に初会合を開き、議論をスタートさせる。
  現行のガイドラインでは<1>早朝空腹時血糖値≧126mg/dL<2>75gOGTT2時間値≧200mg/dL<3>随時血糖値≧200mg/dL-を2度以上確認する、またはこれらを1度確認し、かつ明らかな糖尿病の症状がある、など持続的な高血糖の存在に合致する所見を有する患者を糖尿病と診断している。
  この基準は「日本独自の根拠をもって決めた」(門脇氏)ことから、空腹時血糖値や75gOGTT2時間値の診断基準に該当するHbA1c値についてのわが国のデータを検討する。合わせて、網膜症の発症率についても検討する。広島原爆障害対策協議会が行う「被爆者の健康管理に関する調査研究事業」のデータを引き合いに出し、HbA1cが(現在の治療目標である)6.5%以上を超えると、「明らかに網膜症の発症率が増加している」(門脇氏)とした。
  その上で「個人的な考え」と断った上で、「早期発見・早期管理のためには6.5%より低い値が望ましい。ただし、わが国のHbA1c値とWHOや米国でのHbA1c値の間の“バイアス”も十分に考慮に入れて策定をする必要がある」との見解を示した。

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2009.4.17 記事提供 Japan Medicine(じほう)