イマチニブやヘッジホッグ阻害薬が
ガン発生経路を攻撃する治療薬として効果が大きい

新規のがん治療薬としてのヘッジホッグ経路阻害薬に大きな期待

きわめて初期の臨床試験の臨床結果ではあるが反応は劇的であり、研究者はこの手法の将来を有望視している。

Zosia Chustecka


【9月2日】ヘッジホッグ経路の阻害薬として作用する新規の抗がん療法へのちょっとした興奮が、専門家の間で拡がりつつある。I相試験の臨床結果であるにもかかわらず、一部の患者で見られた反応は劇的なものであり、この手法は「きわめて有望」だと、ミシガン大学(アナーバー)皮膚がん科教授のAndrzej Dlugosz, MDが語った。

Dlugosz博士は、この臨床試験の結果を詳述した論文2本に関連する『the New England Journal of Medicine』9月2日号オンライン版の解説記事の共著者であり、Medscape Oncologyの取材に応じて、この手法に対する大きな興奮の理由を説明してくれた。

博士の説明によると、ヘッジホッグシグナル伝達経路ががんに関与していることが明らかになったのはおよそ13年前のことだ。この経路は胚発生における重要な制御因子であり、がんの時に再活性化されるが、そうした再活性化は成人のほとんどの正常組織では必要がないとされている。したがって、この経路を阻害することは腫瘍細胞だけを選択的に攻撃する方法になると期待されている。

早期結果はそれが当てはまることを示していると博士は言う。治療への反応の中には劇的なものがあり、使用された薬物(GDC-0449、Genentech社が開発中)には血液毒性が見られなかった。さらに使用も簡便で、1日1回の経口摂取である。

しかしDlugosz博士は、こうした臨床結果はごく初期のものにすぎないと言う。『New England Journal of Medicine』に報告された試験のうち、1件は基底細胞がんの患者33名を対象にしたI相試験による結果であり、もう1件は転移髄芽腫の患者1名の症例報告である。

この2種類のがんはヘッジホッグ経路によって引き起こされるものであり、腫瘍細胞自身の経路が活性化される変異、すなわち細胞自己活性化によってがんが発生すると考えられている。

これら2種類のがんで劇的な反応が見られたことは、確かにヘッジホッグ経路に依存していることを示しており、こうした腫瘍の維持にはこの経路が必要であることが推測できるとDlugosz博士は説明する。「この経路を遮断すれば、腫瘍の増殖を持続するために必要な仕組みを止めることができると考えられる」と博士は言う。

同じことはこれまでにも、慢性骨髄性白血病と消化管間質腫瘍の治療薬であるイマチニブ(Gleevec)で見られた。博士によれば、これはがん経路で決定的に重要な分子を標的にした薬物の一例である。この薬物の場合では、以前Medscape Oncologyが報道したように、患者にとってきわめて大きな臨床的便益があり、がんの治療の革命という評価がイマチニブには惜しみなく寄せられていた。

しかし、ヘッジホッグ経路が関与していると考えられているがんは他に多数あり、ヒトの悪性腫瘍の30%くらいになるのではないかとDlugosz博士は考えている。そうした腫瘍としては、膵臓がん、消化管がん、結腸直腸がん、卵巣がん、前立腺がん、一部の白血病、多発性骨髄腫などがある。こうした内臓の腫瘍の多くは、ヘッジホッグたんぱく質が産生されてがんが引き起こされ、そのタンパク質が分泌されて、周辺の細胞に影響を及ぼす。次にそうした周辺細胞がさまざまなタンパク質を分泌して環境を作り上げ、腫瘍を養い、増殖をさせると博士は説明し、つまり分泌されたヘッジホッグたんぱく質はまるで「肥料」のような働きをすると語った。

ヘッジホッグ経路の遮断はこうしたがんの一部のものへの治療に役立つのではという期待が生れ、多くの実験データのそれを裏付けている。

しかし現時点では「これらの薬物が臨床的にどの程度役に立つのかということはまったく分かっていまい」と博士は言う。

現在、別の臨床試験も進められている。Genentech社は基底細胞がんのII相試験を進めており、その他にも、Infinity社やBristol-Myers Squibb社などの数社が、がんにおけるヘッジホッグ経路遮断薬の検証を進めている。研究者主導の臨床試験もいくつか進められており、小児髄芽腫の試験が1つと膵臓がんの試験が1つある。

基底細胞がんでの結果

『New England Journal of Medicine』9月2日号に発表された基底細胞がん試験は、トランスレーショナルゲノミクス研究所(アリゾナ州スコッツデール)のDaniel von Hoff, MDを始めとし、Genentech社の社員数名を含むグループが実施した。研究グループの説明によると、対象となった患者33名は、標準治療では奏効しなかったさまざまな固形腫瘍の患者68名を登録したもっと大規模なGDC-0449のI相試験の一部である。

基底細胞がんは通常は外科的に治療するが、再発・拡大することがまれにあると研究グループは記している。ただし、今回の試験の患者は、手術、放射線療法、全身療法といった従来の治療選択肢ではもはや反応しなくなった進行腫瘍の患者である。

患者33名のうち、18名が転移がんであり、15名が局所進行がんである。被験者には治験薬を3種類のうち1種類の用量で治験薬を投与した(17名が150 mg/日、15名が270 mg/日、1名が540 mg/日)。治療期間の中央値は9.8か月であった。

33名の患者のうち18名で客観的効果が見られ、CR(著効:完全消失)が2名、PR(有効:50%以上の縮小)が16名だったとVon Hoff博士らは報告している。その他の15名のうち、11名ではがんはSD(不変)であり、4名ではPD(進行)であった。

治療関連と思われる有害事象としては、疲労感(4名)、低ナトリウム血症(2名)、筋攣縮(1名)、心房細動(1名)があった。グレード4の有害事象は1例あった(無症候性低ナトリウム血症)が、これは治験薬とは無関係と判定された。局所進行がんで部分反応を示した患者の1名が、持続する有害事象(グレード1の腹痛・疲労感・体重減少・味覚不全、グレード2の食欲不振)のために8か月後に治療中断を決めた。

研究グループは分子研究も行なった。治療効果の有無と対応させると、「進行がんの増殖と維持はヘッジホッグ経路の活性化に依存している」ことが示された。

「今回の知見により、基底細胞がんにはヘッジホッグ経路が関与していることが確認され、ヘッジホッグ経路を抑制することが手術不能の腫瘍の治療に役立つことが考えられる」と著者らは結論で述べている。

この試験で対象になった手術不能や転移した基底細胞がんの患者の人数はきわめて少ないが、基底細胞がん全体はヒトにおいてもっとも多いがんであると、Dlugosz博士はMedscape Oncologyに対して語った。典型的な基底細胞がんはほとんどの場合で手術により根治可能なので、それに対して全身療法を行なうことは適切ではないかもしれない。しかし、ヘッジホッグ経路阻害薬の局所適用可能な製剤がもし可能ならば、数多くいる患者にとって有益になるはずだ。特に、このがんの好発部位である顔面に発生した患者は手術しないことを希望する。

ただし、博士によれば、マウスを使った遺伝子研究によれば、この種の薬物で腫瘍は小さくなるが、完全に消滅するわけではないことが示されている。すなわち、一部の手術は避けられないのだが、それでも侵襲性は大きく低減すると博士は言う。今回の試験で記述された反応は「印象的であり、一部の大型の腫瘍がほとんど消えてなくなるくらいにまで縮小した」とDlugosz博士は強調した。

髄芽腫における劇的な反応

同じ『New England Journal of Medicine』9月2日号オンライン版には、転移性髄芽腫における反応の詳細な症例報告も発表されている。著者はジョンズホプキンス大学シドニー・キンメル総合がんセンター(メリーランド州ボルティモア)のCharles Rudin, MD, PhDらで、著者の一部はGenentech社の社員である。

患者は26歳の男性で、4年前に髄芽腫が診断された。診断当時の髄芽腫は小脳内にとどまっていた。患者は手術、放射線、抗がん剤で治療を受けたが、2年後に再発と転移が見つかり、再び化学療法を受けた。18か月後には転移が全身に拡大し、再び手術、放射線、抗がん剤治療およびベバシズマブ(Avastin)による治療を受けた。

著者らの説明によれば、患者は、治療法がなくなったためと、髄芽腫にはヘッジホッグ経路が重要な働きをしている可能性が前臨床試験のエビデンスで示されていることから、GDC-0449のI相試験に登録した。

「腫瘍は、不完全ながら顕著な、一過性ながら迅速な効果を示した」と著者らは説明している。治療の1か月後に、一部の腫瘍が退縮し、つまり胸骨にあった2つの腫瘤が触診できなくなり、鎖骨上リンパ節腫脹は顕著に縮小し、硬膜上の腫瘤は検出できなくなった。

「この治験薬は、数週間の治療で患者に著効があった」とRudin博士は述べている。「患者は、強い疼痛でほとんど寝たきりの状態から、痛みなしで運動できるほどまでになった。」

しかし、およそ3か月の治療後には、一部の部位に腫瘍の再増殖の徴候がポジトロン放射形断層撮影で見つかり、新規病変もいくつか見つかった。腫瘍が進行したため患者は治験薬の使用を中止し、その後に治療を続けたにも関わらず、2か月後に死亡した。

Rudin博士らは、この退縮は「患者の腫瘍の量と転移の広がりを考えれば、特筆すべきものだ」と記している。今回の反応は「この患者の腫瘍の増殖の維持と誘発においてヘッジホッグ経路が主要な役割を果たしていることを強く示している。」

「さまざまな髄芽腫患者を対象にして注意深い観察を行なっている臨床試験に、こうした初期の観察を慎重に応用することは意味がある」と著者らは結論で述べている。

Dlugosz博士はこの症例に関して、腫瘍は当初は反応していたが、時間が経つうちに残念ながら腫瘍細胞が変異するなり、その他のメカニズムなりで耐性を獲得したと考えられると述べている。博士によれば、この現象は慢性骨髄性白血病と消化管間質腫瘍へのイマチニブでも見られる。一腫瘍が耐性になる症例が一部にあるが、この問題を乗り越える手法がすでに開発されている。「典型的な腫瘍細胞はゲノムが安定していないので、変異が起り、がん経路の重要分子のひとつを標的にした治療法に対して耐性を持つことがある」と博士は説明する。しかし、イマチニブの場合と同じように、この問題を解決した新しい薬物が開発される希望があると博士は言う。また、内臓がんの場合には、ヘッジホッグ経路が腫瘍以外の細胞でも働いているので、薬物耐性をもたらす変異が起こる可能性は少ないと考えられる。

この腫瘍がヘッジホッグ阻害薬に対して耐性になる形質転換の詳細が、『Science Express』9月3日号オンライン版に発表される予定である。がんが再発した時、薬物の標的箇所をコードしている遺伝子に変異を起こしており、そのために薬物が標的箇所に結合できなくなっていた。

Dlugosz博士は、Merck社からコンサルタント料を、Pfizer社から助成金を受けている。Rudin博士、Von Hoff博士と共著者、LoRusso博士はGDC-0449のI相試験に対してGenentech社から研究資金を受けている。2つの論文の共著者の一部は、Genentech社の社員である。

N Engl J Med. Published online before print September 2, 2009.


Medscape Medical News 2009. (C) 2009 Medscape


2009.9.15 記事提供  Medscape