玄米や果物
運動も大切
肝機能の低下に、一見関係なさそうな便秘が拍車をかけることはあまり知られていない。国内に約3千万人の患者がいるといわれる脂肪肝になると、肝硬変、肝がんなどにつながるおそれもあり、便秘の悪影響を無視するわけにはいかない。肝臓をいたわりながら便秘も防ぐには食事内容を含め、生活習慣をどう改めればよいのだろうか。
脂肪肝、がんに発展
春の健康診断で、日ごろの不摂生を振り返りつつ結果を戦々恐々と待っている人も多いはず。日本では肝硬変、肝がんなど肝臓病の8割以上がウイルス性とされるが、虎ノ門病院の熊田博光分院長は「最近では肥満などが原因で肝臓病になる例が増えている」と指摘する。健康診断で肝臓に関する数値が基準値を超えている場合、肝臓病の疑いがある。同分院長は「専門医の診断を受けることが大前提」としたうえで、生活習慣の改善を呼びかける。
肝臓病のなかでも、肝臓に脂肪が重量比で30%以上たまった脂肪肝は、生活習慣とかかわりが深い。肝硬変や肝がんに発展し、後戻りがきかなくなる前に生活習慣の改善を心がけ、早めに肝臓の機能回復に努めることが重要だ。便秘が肝臓に負担をかけることも意識しながら、対策を考えるとよい。
脂肪肝の原因は大きく3つある。肥満、アルコール、糖尿病だ。健康診断の結果では「ALT」や「AST」の数値が脂肪肝とかかわりがある。ALTがASTより高い場合、脂肪肝が疑われる。糖尿病が原因の場合には専門の治療が必要になるが、肥満とアルコールによる脂肪肝は生活習慣の改善で防ぐことが可能だ。便秘対策が一定の効果をもたらすと期待できるのもこうした原因で肝機能が低下した場合だ。
熊田分院長によると、便秘になると「本来は体外に排出されるアンモニアなどの有害物質が肝臓に運ばれ、弱っている肝臓に負担をかける」という。肝臓病にかかっていて、しかも便秘が続いた場合、有害物質が血管を通って脳に達し、肝性脳症を引き起こす危険すらある。肝臓に優しく便秘も考慮した生活を送ることが大切だ。
肝機能の向上には、食事量を制限して肥満を改善するとともに、ビタミンを多く含む食品をとることがよいとされる。加えて、便秘には同時に食物繊維の摂取が必要だ。神奈川県立保健福祉大学の中村丁次教授は手軽な方法として「ご飯を玄米や麦飯に変えるなどの工夫で食物繊維を多く摂取できる」と指摘する。
ビタミン摂取重要
「ビタミンの貯蔵庫」ともいわれる肝臓の機能が低下すると、ビタミン不足にも陥りやすい。ビタミンと繊維質を同時にとれるみかんやりんごなどの果物を毎日食べることは、便秘防止と肝機能向上の一石二鳥につながる有効な手段だ。ただ、食生活を改めても実際に肥満状態でなくなるまでには時間がかかり、「半年から1年後を目標にゆっくりと進めることが大切」(中村教授)。
中村教授は便秘と脂肪肝の両方を防止するうえで、ウオーキングなど運動の効用を説く。ウオーキングは「腸を刺激し、便通を促す腸のぜん動運動を活発化する」(中村教授)効果もあるので便秘にもよい。腹筋運動も腸の働きを活発にする。
一方、アルコールは腸を刺激して、排便を促す作用があるが、根本的に便秘が良くなるわけではない。むしろ、飲み過ぎは逆効果で、肝臓などにも負担をかける。アルコールが肝機能低下の原因の場合には、いうまでもなくお酒をやめることが最も重要だ。中村教授は「中途半端に飲む量を減らすよりも、やめた方が楽」と話す。お酒をやめて体調が良くなった爽快(そうかい)感を味わえば、禁酒は苦ではなくなると説く。
肥満やアルコールが肝機能低下の原因になっている場合には生活習慣の改善が効果的だが、ウイルスなどほかの原因があるときは特別な治療が必要になる。健康診断で肝機能が低下していることが分かった場合は、肝臓の専門医に診断してもらい、まず原因を突き止めることが重要だ。
(福岡幸太郎)
肝機能にかかわる健康診断結果の見方
項目 基準値(※) 意味
AST(GOT) 11−38 心筋や肝臓などに多く含まれる酵素
肺炎や脂肪肝などで上昇
ALT(GPT) 6−50 肝臓に含まれる酵素
心臓などにも含まれるASTとの比較で判断
γ−GTP 19−109 肝臓や膵臓、腎臓などに多く含まれる酵素
飲んだアルコール量に比例して上昇
アルコール性肝障害などに関連
ALP 117−350 肝臓病、腎不全などで高い値
血糖(空腹時) 70−110 脂肪肝の原因でもある糖尿病に関連
(注)※虎ノ門病院でしよう。個人差などのため基準値の幅は大きい
ひとくちガイド
《本》
◆肝臓病の基本知識と生活上の注意点は
「専門医がやさしく教える肝臓病」(熊田博光著、PHP研究所)
《ホームページ》
◆肝臓病の解説、専門医・患者のブログなら
「MELIT:患者のための医療情報リテラシー」(http://melit.jp)
◆学会認定の専門医、市民講演会の紹介
「日本肝臓学会」(http://www.jsh.or.jp)
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