女性患者の大部分は鉄欠乏症
別の重い疾患 隠れることも
「疲れがとれない」「全身がだるい」――。貧血に対しては、このような軽い症状のイメージを持つ人が多い。確かに貧血の多くは偏った食生活などが原因で、治療も比較的簡単だが、中には重い疾病が隠れているケースもある。自分では見分けの付かないこともあるので、気掛かりな人は、医師に相談した方が良いだろう。
「ちょっと食事に気をつけるだけで回避できるのに」。目黒西口クリニック(東京都品川区)の南雲久美子院長は、貧血の患者を診察するたびに歯がゆい思いをしている。
数年前、体調不良を訴えて来院した女子高校生を問診したところ、偏食がひどいうえに食生活も不規則だった。血液検査をすると、貧血の指標となるヘモグロビン量が血液1デシリットルあたり6グラムしかなかった。これは女性の基準値である11.3−15.2グラムの半分程度。事故などで急激な出血を伴った場合は、輸血を必要とする水準だった。
療養いやがる
ヘモグロビンは鉄とたんぱく質からなり、全身に酸素を運ぶ役割を果たす。鉄不足で貧血になると体内が「酸欠状態」になり、これをカバーするため血液の循環が速まる。その結果として動悸(どうき)や頻脈、息切れなどの症状があらわれる。
食生活の改善を指導し、鉄剤を処方した。しかし鉄分の多い食品は「食べにくい」と言って拒んだり、鉄剤は腹にもたれるため服用しなかったりすることが重なった。通院自体も不定期で、いくつも病院を回った末、結局は戻ってきたという。
ここまで極端でなくても、貧血患者には治療途中で通院をやめる人が少なくない。南雲院長は、痛みなどの自覚症状が少ないことから、患者に「たいした病気ではない」との先入観があるためだと考えている。
南雲院長は貧血の女性のほとんどは「鉄欠乏性貧血」だと話す。ダイエット目的で食事を減らしたり、外食による栄養の偏りなど食習慣が主な原因だ。意識して食生活を改めれば治るが、そうしない人が多いことについて「もったいない」と話す。ひめのともみクリニック(東京都品川区)の姫野友美院長も「女性は初潮を迎えてから閉経後まで、鉄不足と一生戦う必要がある」と、自覚を促している。
では、どのように鉄分をとればよいのだろう。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2005年版)」では、1日当たり成人女性で10.5ミリグラム、妊婦で19.5ミリグラム、成人男性は7.5ミリグラムの鉄分をとるよう推奨している。
子宮筋腫だった
一方で鉄分は毎日1ミリグラムが体外に排出される。女性の場合、これ以外にも月経1回で15ミリグラム−30ミリグラムの鉄分を失う。鉄分を吸収できるのは、食べた量のうち10%程度に過ぎず、回復のためには食材とその量を考え合わせながら食べることが必要だろう。(表参照)
そうはいっても必要量がとれない人にサプリメントをすすめるのは姫野院長。
「特に、摂取効率がよいヘム鉄を含むものがいい。過剰分は排出されるので、副作用の心配もない」
鉄欠乏性貧血になる原因の多くは食事の偏りだが、中には重大な疾患が隠れている場合もある。
「土気色の顔色の中年の女性が待合室で待っていた。本人は『最近調子が悪くて』といった程度の認識だったが、診察し血液検査をしたところ、子宮筋腫を原因とするひどい貧血だったことがわかっ
た」(南雲院長)。この女性はヘモグロビン量がたった2グラムだった。
来院のきっかけは、シップを買うため薬局を訪れたところ、顔色の悪さに気付いた薬剤師に受診をすすめられたこと。消化器系のがんなどでも同様のケースがあるという。当然、原因の病気を治すことが最優先だ。
貧血と低血圧の混同も気掛かりだ。フラワーロード服部内科(神戸市)の服部かおる院長は、貧血を疑って病院を訪れる人の中には低血圧による立ちくらみなど「起立性低血圧」の人が目立つという。症状から自分である程度は見分けることもできる。(表参照)。いずれにしろ「たかが貧血」と軽く考えない方がいいだろう。
男性の症状、特に注意
男性は女性に比べて、貧血が少ない。鉄不足になるほどの偏食はまれ。それだけに症状が出たときは「慎重な対応が必要となる」(フラワーロード服部内科の服部かおる院長)。
貧血の診断を受けたときにまず考えられるのは、消化器の潰瘍(かいよう)やがん。これらが原因で少量の出血が長期間続いている可能性があるからだ。
通常の貧血症状のほか、舌が赤く炎症を起こしたり、あるいは表面がつるつるになったりといった症状が出た場合は巨赤芽球性貧血が考えられる。何らかの原因で鉄分の吸収に必要なビタミンを胃や腸が摂取できていない場合に起きることが多い。食欲不振や吐き気を伴うこともある。
男性の貧血は速やかに医師の診断を求めることが大切だ。きちんと治療する構えがいるだろう。
貧血と低血圧の見分け方
貧血と疑われる症状
□朝、起きられない
□夕方になると疲れが出てくる
□根気が続かない
□注意力が低下してイライラする
□階段を上ると息切れがする
□爪が割れたり、そっている
□髪の毛が切れてささくれている
□取れにくい疲労感がある
□女性の場合、生理の出血が多く期間が長い
低血圧と考えられる症状
□ときどきめまいがする
□立ちくらみが起きる
□ふらつく
□よく眠れない
□食欲がない
□胃がもたれる
□発汗する
□失神する
鉄を多く含む食品の例
食品名 1回に食べる標準量 標準量に含まれる鉄分
豚レバー 60グラム 7.8ミリグラム
鶏レバー 60グラム 5.4ミリグラム
丸干しイワシ 50グラム 2.2ミリグラム
カキ 80グラム 1.5ミリグラム
アサリ 30グラム 1.1ミリグラム
納豆 50グラム 1.6ミリグラム
ほうれん草 80グラム 1.6ミリグラム
小松菜 80グラム 2.2ミリグラム
(注)「五訂増補日本食品標準成分表」による |