いつの間にか緑内障

点眼薬で進行阻止
自覚症状なくても 40歳で検診を

視神経が侵され、視野が欠けてくる緑内障は、いったんかかると治らない。放置すれば失明に至ることもあり、進行を遅らせる手当てが大切だ。高齢者の病気というイメージが強いが、実は40歳以上の20人に1人は緑内障ともいわれる。働き盛りにとっても決して縁遠い病気ではない。

右目が0.04、左0.08という高度近眼の吉田礼子さん(仮名、45)は、40歳になったころ、本を読んでいてピントが合いにくいことに気づいた。老眼かと軽い気持ちで診察を受けると、右目が緑内障という診断。「そういえば夜、電気を消すと、しばらくすればぼんやり見えてくるはずの室内が、右目に限って闇のままだと気付いた」

1年後には左目も発症。以来「進行を遅らせるため毎晩目薬をさすこと。ご飯は忘れても目薬は忘れるな」という医師の厳命を守り、長時間の読書を控えるなど目をいたわっている。

眼圧上昇が原因

「30代でも、1日中パソコン仕事をするOLやシステムエンジニアなどに緑内障の人は結構いる」と言うのは、みどり眼科クリニック(東京都中央区)の西脇澄子医師。「緑内障は決して高齢者だけの病気ではない」と警鐘を鳴らす。

物を見ることができるのは、網膜で受けた光が電気信号に変わり、視神経を伝わって脳の視覚中枢に届くからだ。視神経が侵されると電気信号が伝わらず、結果、視野が欠けてくる。この視神経が、眼圧の上昇により侵され死滅していくのが緑内障だ。

目の角膜と水晶体に間には房水(ぼうすい)という透明の体液が流れ栄養補給をしている。房水は毛様体という組織で作られ、隅角(ぐうかく)にある溝から排出される(下図参照)。この房水がうまく排出されないと、眼圧が上昇してしまう。

緑内障にはいくつかのタイプがあるが、最も多いのが「開放隅角緑内障」とよばれるもの。隅角にある排水溝のフィルターが徐々に目詰まりを起こし、年月をかけて眼圧がだんだんと上がっていく。視野は真ん中から外れた所から徐々に欠けていくので、自覚症状がない。

「目には、片方で見えない分をもう片方で補う補完作用があり、中には片方の目が失明するまで自覚症状のない人もいるほど」と、緑内障の権威である赤坂北澤眼科(東京都港区)の北澤克明院長は言う。

さらに厄介なのは、眼圧が絶対的な物差しにならないこと。正常な眼圧は10−21ミリメートルHgとされるが、この範囲内なのに視野が欠けてくる場合も多い。なぜか。

「眼圧10−21ミリメートルHgは健康な人での統計学上の数値。人によっては、その数値でも視神経に支障を来たすことがある」と北澤院長。血圧が180ミリメートルHgで脳出血になる人もいればならない人もいるのと同じという。「開放隅角緑内障の人の90%が正常眼圧の範囲内にある。しかも、なぜか女性は男性に比べ、正常眼圧緑内障の治療経過が芳しくない」というから要注意だ。

最近は定期健診や人間ドックでも眼圧検査が一般的になったが、眼圧チェックだけで安心できないとなると、対策はどうしたらいいのか。「40歳過ぎたら、とにかく眼科専門医で検診を」と、東京大学大学院の新家眞教授は早期発見の重要性を説く。

「比較的早期なら治療で進行を十分遅らせることができる。失明することなく人生を全うできる可能性も高いので、悲観する必要は全くない」。冒頭の吉田さんも言う。「緑内障と知って10年過ごすのと、知らないで10年過ごすのでは、将来大きく違ってくると、今はしみじみ思う」

悲観の必要なし

緑内障とうまく付き合っていくためには早期発見が大切だ。幸い1、2年で失明など重大な結果につながる病気ではないので、一度検査して問題ないようなら、その後の検診は必ずしも毎年でなくていい。いずれにせよ、緑内障に詳しい眼科医に診てもらうといい。日本緑内障学会(http://www.nicigan.or.jp/index.jsp)のホームページで専門医を探せる。

代表的な緑内障のタイプ

病名       原発開放隅角緑内障           原発閉塞隅角緑内障
原因      房水を排出する排水溝の        房水を排出する排水溝がふさがれて、
         フィルターが徐々につまり、        眼圧が上がる。
         次第に眼圧が上がり、          急性発作が起こりやすく、
         視野が欠けて いく            一夜にして失明することもある

自覚症状   ほとんどなし。眼圧が          急性の場合は目の痛みや充血・かすみ。
         正常値の場合もある           頭痛や吐き気があることも。
         (正常眼圧緑内障)           慢性の場合はほとんど自覚症状なし

危険因子   高い眼圧、近視、高齢者、       高い眼圧、遠視、女性、高齢者、
         血縁に緑内障の人がいる場合     血縁に緑内障の人がいる場合

(注)他に眼や全身にけがや病気があって眼圧が上昇する「続発緑内障」、生まれつき排水溝に異常があり眼圧が高い「発達緑内障」もある

※新家教授の話を基に作成

2008.12.13提供 日経新聞