冬の肩こり
■キーボードは体の近くに
■仕事の合間にストレッチ
寒さが本番を迎えるこの季節、血行が悪くなり肩こりに悩まされる人は多い。ひどい肩こりを押して仕事をしても、能率は低下しがちだ。しかし日常生活の中でいくつか気をつけるだけで、症状の多くは改善できると専門家は口をそろえる。肩こりはなぜ起こるのか、防ぐにはどうしたらよいのかを調べてみた。
女性では1位、男性も「腰痛」に次いで2位――。厚生労働省の2007年の国民生活基礎調査。「気になる自覚症状」として「肩こり」を挙げた人が、男女とも上位を占めた。女性では1000人中131人、男性も61人が症状を訴え、04年の前回調査よりも比率は上昇していた。
肩こりの多くは疲労や姿勢の悪さ、ストレスなどによって引き起こされる。寒いとひどくなることもある。聖路加国際病院の田崎篤医師(整形外科)は「姿勢の改善や運動などで、多くの場合は症状を改善できる」と指摘する。
血行障害が原因
肩こりはどうして起こるのか。人間の腕は関節を介して肩からぶら下がっている。腕を支える役割をしているのは、首の後ろ側から肩にかけて広がる「僧帽筋」などの筋肉だ。ここに過度の緊張が加わると、筋肉の中を通る血管が収縮して血行障害がおこる。このために、筋肉に老廃物がたまるなどが「肩がこった」という感覚の原因だ。
防ぐには何に気をつければよいのだろうか。田崎医師はまず姿勢について「アフリカの人たちが、頭の上にツボを乗せている姿勢をイメージすればよい」と説明する。頭の重みが良いバランスで脊椎(せきつい)の上に乗っており、筋肉に負担がかかりにくいという。猫背になると僧帽筋などが首の後ろ側で引っ張られる形になり、筋肉に過剰な負担をかけてしまう。
例えば机のパソコンに向かい続ける仕事の場合、キーボードが体から離れた場所にあると猫背になって上目遣いで画面をにらみ続ける姿勢になる。そこでキーボードを体の近くに寄せてワキをしめながら作業をすれば、自然と姿勢が改善されて肩こりが起こりにくくなるという。
また、仕事中などにずっと同じ姿勢のままだと、特定の筋肉に負担をかけ続ける。仕事の合間に伸びをしたり腕を回したりと、ストレッチ運動を採り入れることも有効だ。運動で肩の筋肉が付けば肩こりが起こりにくくなるため、日ごろから水泳やダンベル運動などで体を鍛えておくことも予防につながる。
肩こりは冷えによっても引き起こされる。筋肉が冷えて血管が収縮し、血行が悪くなるからだ。寒さの厳しい今の季節は特に要注意だが、東京女子医科大学・八千代医療センターの伊藤達雄病院長は「夏も冷房の利きすぎた部屋などにいるときは注意が必要」とよびかける。若い女性の着るノースリーブの衣服は、肩を冷やしてしまうため気をつけた方がよい。
対策としては、例えばシャツの上にベストを着たりショールを羽織ったりするなど、肩を冷やさない服装を心がけること。また、入浴時にはしっかりとお湯につかり、肩まで温める。下着の上などから肩の部分に使い捨てのカイロを張っておくのも1つの手段だという。
温湿布も有効
肩こりを少しでも和らげようと、張り薬を使う人も多いだろう。張り薬には大きく分けて張ったときに冷たいと感じる「冷湿布」と、暖かいと感じる「温湿布」の2種類がある。温湿布にはトウガラシエキスの成分が含まれ、張った部分の温度を上げて血行を促進する作用があるため肩こりに適しているとされる。
冷湿布も薄い一般的なタイプなら血行促進成分などが含まれ、特に肩こりに悪いことはないという。
張り薬メーカーの久光製薬は「痛みがあっても風呂に入ったときに気持が良いと感じる場合には温湿布を、痛みが増すときには冷湿布を使ってほしい」(医薬事業部・学術部)と説明している。ただ、注意が必要なのは厚手で水分が含まれるタイプの冷湿布で、張った部分の温度を1−2度ほど下げる作用があるため肩こりには望ましくないとされる。
肩の痛みの中には筋肉の疲労や冷えではなく、病気が原因のものもある。代表例は肩の関節周囲が炎症を起こす「四十肩」などだが、それ以外に心臓病など深刻な病気の前兆の場合もある。通常の肩こりと比べ強い痛みがしつこく続くのが特徴だ。思い当たる場合は整形外科などの専門医の受診をお勧めする。
(本田幸久)
肩こりを防ぐために気をつけること
頭の上にツボをのせているイメージで猫背にならないように心がける
仕事で同じ姿勢を長く続けるときは合間にストレッチ運動を
適度な運動で肩に筋肉を付ける
肩をなるべく冷やさない服装を。夏場の冷房の利きすぎにも注意
ひとくちガイド
《本》
◆肩などの起こる痛みの解説書
『ひざ・腰・肩の痛み 新版』(三井弘著、主婦の友社)
《ホームページ》
◆肩こりなどの原因や対処法についてエーザイの運営する「腰痛・肩こり倶楽部」
(http://www.nabolin.com/) |