座禅 ストレス解消に一役

腹式呼吸で頭すっきり
イライラしにくく

 ストレス解消に一役買うと座禅が注目されている。精神統一が心の安定につながり、独特な腹式呼吸のリズムが脳の神経を刺激して頭をすっきりさせてくれる。正しい呼吸法をマスターすれば、自宅でも簡単に実践できる。

 JR上野駅から歩いて10分のところにある臨済宗大徳寺派宋雲院。路地を入り込むだけで車の騒音が遠くに感じられた。毎月開催される座禅会に12月上旬、参加した。
 初めて座禅体験。まず山本文渓住職から座り方や呼吸法などの指導を受ける。日ごろの運動不足がたたり体が硬くなかなか正しく座れない。仕方なく片方の足を崩した姿勢で始めることになった。「最初はできない人の方が多い」(山本住職)。参加者10人とともに、途中に5分間の休憩を挟みながら、約1時間座禅に取り組んだ。

最後まで息を吐く
 座禅は腹式呼吸が基本。丹田と呼ぶへその下の部分を意識して呼吸する。腹式呼吸というと横隔膜を使って息を吸うことだと思いがちだが、座禅では意識してゆっくりと最後まで息を吐ききることがポイントだ。
 座禅の呼吸法に詳しい調和道協会の鈴木光弥理事によると「緊張して息んでしまうとよくない」とアドバイスする。肩の力を抜き、上腹部を意識してゆるめる。腹にしわがよるぐらいがちょうどよい。ふーっと空気を出し切る感じでゆっくり息を吐く。吸うのは息を吐いた反動で肺が膨らむのに任せる。
 不思議と眠気に襲われることもなく、しばらくすると頭がすっきりしてくる。終えるとまるで仮眠を取ったときのような気分だ。
山本住職は「日々の生活にイライラしている人ほど座禅に取り組んでもらいたい」と話す。
座禅をすると心が落ち着くほか、なぜ、すっきり、爽快(そうかい)な気分になるのだろうか。 

脳の覚醒促す効果
 座禅と脳の関係について研究する東邦大学医学部の有田秀穂教授(生理学)は「座禅をするとアルファ波と呼ぶ脳波が出ることが分かってきた」と話す。アルファ波はリラックスした時に出る脳波だが、有田教授らの研究で2タイプあることが判明。目をつぶった時にはリラックス状態を示すスピードの遅いタイプ(周波数8−10ヘルツ)が出るのに対して、座禅をすると速いタイプ(同10−13ヘルツ)が出てくる。これが脳の覚醒(かくせい)を促し元気が出る心理状態が得られるという。

 座禅をするとアルファ波が出てくるのは、脳の神経の1つセロトニン神経が刺激されるからだ。息を吐くことを意識した腹式呼吸は腹筋を使ったリズム運動でもある。筋肉の収縮と弛緩(しかん)を周期的に繰り返すことでセロトニン神経を興奮させる。
 セロトニン神経は脳内の様々な神経に対しセロトニンを一定の頻度で放出し、覚醒状態を維持する神経への刺激の頻度が増えて分泌量が多くなると、自然とすっきりした気分になる。
 有田教授は22人に協力してもらい座禅をした場合と、しなかった場合の尿中のセロトニン濃度を調べた。座禅前、1ミリリットル当たり平均134ナノ(ナノは10億分の1)グラムだったのが、座禅後30分立つと同203ナノグラムに増えた。別の日に同じ時間帯に同じ条件で座禅をしなかった場合は、こうした変化は表れず、座禅が脳内でのセロトニン分泌を促したと考えられるという。
 
 座禅の呼吸法を続けると約5分でセロトニン神経が活性化し、アルファ波が出てくる。30分から1時間程度続けると効果的だ。
 意識して腹式呼吸をすることが何よりも大切で、テレビを見ながらおしゃべりをしながらでは駄目だ。毎日、3カ月程度続けるとセロトニン神経が鍛えられ、イライラしにくくなり、ストレスに強くなる。
座禅は場所を問わずどこでもできる。ただ、自己流だと効果を十分に引き出せないケースも多い。
正しい呼吸法を習得するには、近くで座禅会を開く寺院を探して一度参加してみるのがよい。
(合田義孝)

座禅の健康効果のメカニズム
@腹式呼吸
A脳のセロトニン神経を刺激
Bセロトニンが放出されアルファ波が出る
C頭がすっきり、ストレス耐性ができる

ひとくちガイド
《本》
◆呼吸法と脳の関係を調べるなら
『セロトニン欠乏脳−キレる脳・鬱の脳をきたえ直す』(有田秀穂著、日本放送出版協会)
◆座禅の仕方を学ぶなら
『目で見る座禅入門』(宝積玄承著、東方出版)

2007.12.30 記事提供 日経新聞