肩こり 家庭や職場で解消のコツ

まめにストレッチ
リラックス法試す

 国民病ともいわれる肩こり。
 年を取るにつれ慢性化しやすいし、ひどくなると頭痛などの原因にもなる。パソコンなどに熱中し無理な姿勢を続けると筋肉が収縮し痛みが発生、この痛みのせいで筋肉がいっそう硬くなる。つらい悪循環を断ち切るには、職場や家庭でこまめに首の筋肉を伸ばすようにすると効果がある。

  肩こりには大きく分けて2つタイプがある。
 1つ目は単純な筋肉疲労。直立歩行の人間は、立った姿勢だと頭、首、腰でバランスよく頭の重さを支えるが、パソコンや家事などで頭を前に傾けると、首や肩の筋肉にどうしても負担がかかる。
 毎日長時間こうした姿勢を続けていると、筋肉が収縮する。血管が狭くなり、血流が減る。酸素が足りなくなり痛みを引き起こすプロスタグランジンなどの物質が増える。痛みで筋肉の神経が刺激されると、さらに筋肉が収縮する。
 40代以降の肩こり持ちの人を調べると、筋肉疲労に加えて首や背中の骨の関節に炎症が起きていることが多い。これが2つ目のタイプ。外見からはわからないが、背骨を調べると骨の軟骨がすり減っている。骨がぶつかりやすくなり背骨に関節炎を引き起こす。この炎症が筋肉の痛みを悪化、悪循環に拍車をかける。肩の関節が痛くなるのが特徴だ。

 症状を軽くするには頻繁に首や肩の筋肉を動かし「緊張」をためないようにすること。まず首を前、後ろ左右に倒して筋肉を伸ばす。次に頭が動かないよう首に力をいれながら、手で頭を押す。1回2−3分、1時間に1回やるとよい。

 ウエノ整形外科(東京・江東)の植野満院長は「じっとしていたら体を動かしたくなるのは自然なこと。肩こりを解消するには同じ姿勢をあまり続けないでほしい」と助言する。
 東京大学の熊野宏明助教授はストレスと肩こりとの関係に着目した解消法を紹介する。忙しかったり物事が思うように進まなかったりしてストレスがたまると、自律神経のバランスが崩れるなど体の状態を一定に保つ働きに影響が出てしまう。筋肉が硬直し、交感神経の働きが高まり手や足が冷たくなりやすい。

 逆手にとって手を温めれば、脳が「リラックスしている」と“誤解”し肩こりも楽になる。「太ももリラックス法」や「自己統制法」と呼ぶ肩こり解消法だ。
 目を閉じて太ももに手を置き、太ももの温かさが手から腕、肩に広がる状態をイメージする。だんだんと副交感神経の働きが強くなり、違う深いリラックス状態に入り、筋肉も柔らかくなるという。

  一見肩こりとは無縁の病気も、肩こりが原因になっていることがある。埼玉医科大学の金浩澤・助教授の専門は神経内科だが、年間500−600人は肩こりの患者を診る。肩こりのせいで頭の筋肉も収縮し、頭が痛くなってしまう「緊張型頭痛」の患者が多い。
 理由はよくわかっていないが、「雲の上にいるようなふわふわした目まいがする」「耳鳴りがする」といった症状も肩のこりをとるとよくなることもあるという。

 ストレッチやリラックス法を1−2週間毎日続けてもいっこうに症状が改善しない場合は、一度、病院で診てもらうのがよい。中高年に多い背骨に炎症を起こした肩こりの可能性が高い。このタイプは薬を使って炎症を抑えることができる。整形外科などへ行くと筋肉を柔らかくする薬や、神経の傷を修復してくれるビタミンBも処方してくれる。

 「たかが肩こり」と思っていると、思いがけない深刻な病気が潜んでいることも。肩の痛みと同時に手にしびれがあるなら椎間板(ついかんばん)ヘルニア、日を追って痛みが強くなるなら肺がんなどの疑いもある。思い当たる症状があったら、早めに受診しよう。
(北松円香)

首と肩の筋肉を動かすストレッチ
@首を前、後ろ、右、左にゆっくり倒す。10回繰り返す
A首をぐるっと回す。10回繰り返す
B頭を動かさないように首に力を入れながら、右手を右側に当て、10秒間押す。左側、前、後ろでも繰り返す。終わると首まわりが温かくなる
(注)1時間に1回のペースでやるとよい

太ももリラックス法

@座る、またはあおむけに横になって目をつむり、太ももに手を載せる
A首から肩、肩から両手にかけての力が抜ける状態をイメージ(2回繰り返す)
B両手のひらに伝わる太ももの温かさを感じる
C「気持ちが落ち着いて、両手のひらが温かい」状態をイメージ(2回繰り返す)
D「気持ちが落ち着いて、両ひじから両手の先までが温かい」状態をイメージ(2回繰り返す)
E「気持ちが落ちついて、両肩から両ひじ、両手の指先まで温かい」状態をイメージ(2回繰り返す)
F目を開けて、親指を中にして手を握る。息を吸いながら力を入れて手のひらを開く(何回か繰り返す)
G手を組んで、息を吸いながら背伸びをする
・毎日朝と夜にやると効果的
・途中で眠くなったらそのまま寝てよい
・一生懸命にやらなくてもよい
・雑念がわいてもあわてず、最初からもう1回始める

ひとくちガイド
《本》
◆肩こりの解消法を詳しく調べるなら
『肩こり・手足のしびれ』(平林洌著、講談社)
《ホームページ》
◆自分の肩こりの原因をチェックしたいなら
『あなたの腰痛・肩こりを科学する腰痛・肩こり倶楽部』(http://www.naborin.com/

2006.12.10 記事提供  日経新聞