30・40代へ若年化する五十肩
意識して左右を動かす
簡単なトレーニング法も
思い当たる原因がないのに突然、「肩が痛くて腕が上がらない」「背中に手を回せない」などの症状が出る。これを五十肩と呼ぶ。しかし、最近では症状が30代、40代にも多く見られるようになったため「四十肩」ともいうようになってきた。
では、なぜ症状が若年化しているのか。肩疾患の専門家である昭和大学藤が丘リハビリテーション病院整形外科准教授の筒井廣明さんは「現代人は運動不足になりがちなほか、便利な生活によって体のバランスが衰えているから」と指摘。体のバランスを整える運動や生活習慣が予防に効果的だという。
五十肩は、医学的には肩関節周囲炎という。無理な運動などで肩関節の周りの筋肉、腱(けん)などに小さな断裂などが起き、そのため炎症が起こって痛みや運動障害が生じる病気だ。肩関節の酷使によって起こるものなのだが、事務作業をする人や主婦など激しい運動をしない人に多くみられるのはどうしてか。
そのナゾを「実はスポーツ選手や農業などに従事している人より、一般の人のほうが気づかないうちに肩の関節を酷使している」と筒井さんは指摘する。例えば、事務作業やパソコン操作などは、決して関節を壊すような激しい動作ではないが、片方の腕だけで同じ動作を1日中繰り返すことで肩関節の負担になる。
主婦が洗濯物を干したり、台所仕事をしたりするのも同様。しかも、こうした生活を続けることで、気づかないうちに左右均等にできているはずの筋肉のバランスが崩れ、その歪み(ゆがみ)が一方の肩に集中することで肩関節の状態は少しずつ悪化する。
下の表は筒井さんが作成した「五十肩チェックリスト」。激しい痛みや運動障害がある場合など症状が進んでいる場合は整形外科を受診すべきだが、軽い症状の改善や予防には日常生活の改善が有効だ。その第一歩は、体のバランスを意識して整えること。「週1回は、大きな鏡の前で、両肩を上下、前後にゆっくり動かす。肩甲骨が自分が思い描いたように左右均等に動いていることを確認することが重要」と筒井さん。
これだけでも十分、五十肩の予防になる。また、肩に痛みや違和感があるときに家庭で行える運動療法には、よく知られた「アイロン運動」もあるが、「無理をすると逆に悪化させる。最初は、何も持たずに肩関節の力を抜いて自然に腕の重みを感じ、肩関節の筋肉や腱を伸ばすことを意識するといい」と筒井さんはアドバイスする。
より積極的な予防改善トレーニングでも、専門医の考え方は体全体のバランスを整えることに重点が置かれはじめている。肩まわりの筋肉で五十肩の原因となるのは、体表面にある大きな表層筋肉よりも関節の近くについている深部筋肉であることが多い。この肩の深部筋肉を左右均等に鍛えることが効果的だ。
ただ、深部筋肉の動きは意識しにくいのでトレーニングが難しい。そこでバランスボールやゴムバンドなど欧米で生まれた手法を患者指導に用いる整形外科医も増えてきた。「これらの運動は、表層筋肉を総動員するハードなトレーニングではない。深部筋肉を効果的に鍛えるのに向いている」と言うのはスポーツ医学の成果を日常の患者指導に用いている岩間整形外科(横浜市)院長の岩間徹さん。
例えば、市販のゴムバンドを用いた運動方法である。「この運動では腕を動かす角度はわずか30度ほど。外部筋肉を使って無理に大きく動かさず、肩関節にゴムの負荷を自然に感じるぐらいが深部筋肉には効く。左右均等に行って体のバランスを整えることを意識してほしい」(岩間さん)というのがコツだ。
五十肩など肩の不調は、全身の筋肉のバランスが衰えたサインと考え、体全体をバランスよく動かす運動を心がけることが大切だ。
(ライター 荒川 直樹)
運動不足で進む肩関節の不調
五十肩の初期のサイン
・背中など、以前手が届いていた場所に手が届かない
・電車やバスのつり革につかまるのが苦手
・棚の高い位置の物が取りにくい
・肩甲骨がスムーズに動かせない
・肩がだるく、動かすと軽い痛みや違和感がある
受診の必要な症状
・肩に痛みがあって動かしにくい
・痛みが腕まで広がってきた
・じっとしていても肩が痛む
・夜、肩の痛みで眠れないことがある
市販のトレーニング用ゴムバンドで五十肩予防
介護施設の運動療法などにも用いられるトレーニング用ゴムバンド。運動用具店やホームセンターなどで1000−2000円で購入できる
・左足は半歩前。後ろ側の右足でゴムバンドの端を踏む。バンドの端を軸にして左手で握る。右手は左肩に軽くのせる
・手のひらを正面に向け、腕を30度ほど上に開くように、バンドを引っ張る。これ以上は上げないように。左右それぞれ20−30回行う
痛みがあるときは「アイロン運動」
・片手をテーブルなどに置き、上半身を直角に曲げる。腕を肩の付け根から前後、左右にアイロンがけをするように、ゆっくりと動かす。最初は重りなしで。慣れてきたら小さなペットボトルに水を入れて握る
(筒井さん、岩間さんの話を基に作成)