日本大学医学部助教授 駿河台日本大学病院循環器科 科長/医学博士 久代登志男

●研究の背景
フルーツ、あるいは野菜摂取と脳卒中の管連を検討した研究はいくつか有り、フルーツ、野菜摂取は脳卒中発症に対し概ね好ましい影響をすることが報告されている。しかし、本研究ほどの多数で、しかも長期間検討した研究はない。従来の報告では、調査対象数が十分でなく、年齢、喫煙、高血圧、代謝疾患の有無などの影響を除外して解析することは困難であった。また、フルーツと野菜のうち何が大きな影響をしているのかは不明である。

●目的
フルーツと野菜摂取が脳卒中にどのような影響をするかを検討する。

●調査対象
1. 1980年時点で34〜59歳の看護婦75,596例
2. 1986年時点で40〜75歳の医療職男性38,683例

●調査期間
看護婦は1980年から1994年までの14年間 医療職男性は1986年から8年間

●調査チーム
ハーバード大学公衆衛生学教室 等

●調査方法
各人に2年毎に質問票を郵送し、過去1年間のフルーツと野菜の平均的な摂取量と頻度を記入。約8割の例が全ての調査に回答した。

●脳卒中の診断と発生状況
フルーツと野菜の摂取状況を知らない医師のチームが診療録(CT,MRIを含む)を閲覧し診断を確認した。

看護婦:670例の脳卒中、脳梗塞366例、脳出血198例、タイプ不明106例
医療職男性:317例の脳卒中、脳梗塞204例、脳出血64例、タイプ不明49例
※脳出血は例数が少ないため除外して検討した。

 

 

●まとめ

1. 医療職の中高年男女約12万人を8〜14年間に渡り、フルーツ・野菜摂取量と生活習慣を2年毎に調査し、脳梗塞発症との関連を検討した。

2. フルーツと野菜を併せて毎日5食摂っている群からの発症は、2.5〜2.9食しか摂らない群に比べて27%少なかった。

3. フルーツと野菜を併せて9食摂っている群では31%減少した。

4. フルーツ、または野菜が毎日1食増える毎に、脳梗塞発症が6%減少した。

5. 全フルーツ摂取量が多いほど発症率は低下し、1食増える毎に11%減少した。

6. フルーツのうちで柑橘類の影響が最も大きく、全柑橘類(生、ジュース)が1食増える毎に19%減少した。この影響は女性(25%)の方が男性(10%)より顕著であった。

7. 全柑橘類を毎日1.8食摂っている女性は、ほとんど摂らない群より41%少なかった。

8. 柑橘ジュースを毎日1杯以上飲んでいる群は、飲まない群より35%少なかった。

9. 全野菜の摂取量と発症率には明らかな関連はなかった。

10. アブラナ科の野菜を毎日1食以上摂っている群は、ほとんど摂らない群より29%少なかった。

11. 緑黄野菜を毎日1.5食以上摂っている群は、ほとんど摂らない群より24%少なかった。

12. 豆類、ポテトは脳梗塞発症に関連しなかった。

13. フルーツ・野菜の脳梗塞減少に対する効果は、年齢、喫煙、飲酒、運動習慣、高血圧、肥満、高コレステロール血症、心筋梗塞家族歴、閉経による明らかな影響はなかった。

14. この結果は、脳梗塞の予防以外に以下のことが効果的なことを示している。

●毎日フルーツと野菜を併せて5食以上摂る
●その中に、柑橘類を生、ジュースのいずれかで毎日1食以上取り入れる。
●緑黄野菜を毎日1〜1.5食以上取り入れる。

●日本での意義

1. 1997年の日本の租死亡率は人口10万人あたり、癌220人、心疾患112人、脳血管疾患111人であった。

2. 発症頻度では、脳卒中が心筋梗塞の約3倍多い。

3. 以前は脳出血が多かったが、現在は脳卒中の約8割が脳梗塞である。

4. 老人の痴呆の半数は多発性の脳梗塞による。

5. 脳梗塞の危険因子は、高血圧、糖尿病、喫煙、高コレステロール血症などであり、それらの危険因子を改善する事により脳梗塞発症は減少させられるが、皆無にはならない。また、それらの危険因子を持たない人でも発症する。

6. 1997年の国民栄養調査による、1日の果実摂取量は130g、緑黄色野菜93g、その他の野菜は180g前後であった。 今回、米国で発表された知見が日本でどの程度当てはまるかは不明であるが、柑橘類を生、あるいはジュースとして1日1食摂り、緑黄色野菜を増やすことはそれほど困難ではないと考えられる。それにより脳梗塞が2割以上予防できれば、国全体としては非常に大きな意義がある。

→フルーツ・野菜摂取量脳梗塞リスクの関する記者会見 資料へ

(2000.2.23)