【カリフォルニア州サンディエゴ 11月18日 Kristina Rebelo】
肝硬変患者の30%-80%に、潜在性肝性脳症(MHE)として知られる神経認知と精神運動の障害を症状とする精神神経機能異常が認められると推定されている。米国消化器病学会の2009 Annual Scientific Meetingで報告された無作為化対照比較試験に関するメタアナリシスの結果では、プロバイオティクスがこの患者集団に対する一次療法となりうることが指摘されている。
肝性脳症に類似した病的な肝臓の解毒機能不全であるため、腸管で生成するアンモニアがMHEの発症に重要な役割を果たすと考えられていると筆頭研究者でニューヨーク州立大学(バッファロー)の内科レジデントのSandhya Shukla, MDは、ポスター発表中のMedscape Gastroenterologyのインタービューで語った。
「MHEの診断と治療は急務である。MHEの臨床症状が発現していなくても、複合精神運動テストを行えば、この病態が明らかになる」とShukla博士は述べた。「MHEは肝硬変患者に多くみられる」
社会的関心
Shukla博士は、今年前半にMedscape Gastroenterology Viewpointsが報じた、この患者集団における運転技能の低下や高い自動車事故や交通違反のリスクに大きな社会的関心が寄せられていると述べた。これまでに実施されたMHEにおけるプロバイオティクスの評価は、少数の患者を対象とした短期間の研究であった。しかし、このメタアナリシスは、プロバイオティクスの役割を評価するシステマティックレビューを実施し、実際にプロバイオティクスがMHEの特徴的な所見を改善するという結論に至った最初の研究であるとShukla博士は指摘した。
Shukla博士のチームは、Medline、EMBASE、Cochrane Controlled Trials Registerを検索し、プロバイオティクス療法の価値を評価した。
検索で特定された56件の無作為化対照比較試験のうち、3件が採用基準を満たした。これらの試験ではMHE患者140例を、プロバイオティクス(n = 78)またはプラセボ(n = 76)に無作為に割付け、平均4.2ヵ月間の治療が行われた。
Shukla博士は、プロバイオティクス療法に関連した全体的なリスク低下は0.54(95% 信頼区間, 0.423-0.70;p<0.0001)であったと報告した。症状緩和と血清アンモニア値との有意な相関が認められ、標準化した平均値の差は−3.21(95% 信頼区間, −6.15〜−0.26)であった。
プロバイオティクスの使用により静脈内アンモニア値の有意な低下が認められた。Shukla博士らによればプロバイオティクスにより腸内細菌叢が変化し、病原性のウレアーゼ産生菌が非ウレアーゼ産生乳酸菌に置き換わるという。
Shukla博士は、均質な患者群ではないため、結果の解釈には少々注意を要すると警告し、試験のもう1つの制限として、肝臓専門医の間でもMHEの標準的な定義はないことをあげた。
将来の研究では、プロバイオティクスがMHEの経過に及ぼす長期的効果をより詳しく解明するため、適切な検出力を備えた長期間の無作為化対照比較試験を実施すべきであるとShukla博士は述べた。
世論がやや過敏になっている
ポスター発表の参加者で、この試験に関与していないクリーブランドクリニック(オハイオ州)の消化器科肝臓病センター所長であるWilliam D. Carey, MDは、MHEは患者と地域社会にとって多くの社会的影響があるとMedscape Gastroenterologyに語った。「MHE患者の運転にはリスクが伴い、交通違反や事故が多い」とCarey博士は述べた。
Carey博士は「(MHEの管理は)肝臓病領域の中でも非常に新しい分野であり、患者の診察にあたる一般開業医はMHEに詳しくない可能性が高いと考える。法律家が運転免許試験場に患者を通告する大きな責任をもつ医師に対して話すリスクの話題に、世論がやや過敏になっている」と付言した。
Carey博士は、これまでに自分が担当するMHE患者にプロバイオティクスを行ったことはないが、試してみたいと思うと述べた。「問題は、プロバイオティクス療法によって運転ミスや交通事故・違反が減るというデータがまだないことである。この領域ではさらに多くの研究が望まれる」
Shukla博士らおよびCarey博士の情報公開によれば、関連する金銭的関係はないという。
American College of Gastroenterology 2009 Annual Scientific Meeting: Abstract 191. Presented October. 25, 2009. |