経過観察のポイント
●日常診療では、いつもと違う変化に常に気を配る
●脳転移は早期の治療で治せるので、特に注意して観察
●呼吸機能を確認し、症状や所見があればすぐ専門医へ |
徳島県立中央病院では2005年から、肺癌の術後患者は全例、基本的に地域連携パスの対象としている。今までに術後患者約300人のうち200人以上が紹介元の診療所に戻った。連携施設は60を超える。
元々消化器外科医で11年前に開業した井関クリニック(徳島県上板町)院長の井関俊彦氏は、「肺癌疑いで病院に紹介した患者を年1〜2人は引き継いでいる。採血項目など、病院側の具体的な指示に基づいて再発のサインがないか確認しているので、専門外でもそれほど負担にはならない。むしろ継続して患者を診られるようになりうれしい」と話す。
連携体制をつくった徳島県立中央病院外科統括部長の住友正幸氏は、患者の入院時に、術後は診療所と連携して診ていく方針であることを伝え、具体的な連携スタイルは一緒に決めることにしている。「患者の大半は高齢者で独居か夫婦2人暮らし。長距離通院に苦労しているケースが多いので、説明すると大抵は納得されて紹介元に帰る」と住友氏は話す。
同病院では早期癌が増加しているが、転移・再発は、いまだ手術患者全体の3〜4割にも上るという。
通常、術後退院してから、または術後化学療法が終わってから連携は始まる。経過観察のポイントは、肺機能の把握、そして再発や転移のサインを早期に見付け出すことだ。
元々、肺気腫などがある肺を切除するので、少なからず術後肺機能は低下する。住友氏は、「胸水や低換気、低酸素血症などがないか、症状をチェックしてもらう。特に胸膜浸潤例ほど胸水は貯留しやすいので定期的にX線で確認することが大事だ」と話す。息切れや持続する咳、痰の増加といった呼吸器症状があれば連携病院に送ることになる。
また住友氏は、脳転移と骨転移に注意を払うようにと強調する(表5)。「脳転移は早期なら取り切れ、延命につながる。骨転移も、ADL低下を最小限に抑えるために対応の早さが重要になる。いつもと違う痛みや強い痛みが出現すればすぐ送ってほしい」(住友氏)。同病院では、何らか症状や不安があればいつでも診るということを、事前に患者や診療所に強調している。
放射線による肺臓炎に注意
早期の肺癌においては、肺機能の悪い高齢者などで手術と同等の成績を目指せる放射線治療を選ぶケースも増えている。放射線治療を受けて1〜2カ月後は、肺臓炎が出現するリスクが高いので注意したい。
東京都立駒込病院放射線診療科治療部部長の唐澤克之氏は、「呼吸機能が悪い患者では1〜2割で起こす。風邪を引いて感染を合併すると重篤になりやすいので、咳嗽、微熱、呼吸困難といった症状がしばらくしても改善しなければ、すぐ専門病院に送った方がよい」と話している。
(末田 聡美)
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