動脈硬化の破綻について 第74回 日本循環器学会総会より

ACSの多角的な検証を通して新たな治療の可能性に迫る
第74回 日本循環器学会総会

平山 篤志 先生
日本大学医学部. 循環器内科教授


 1970年代後期から始まった急性心筋梗塞に対する急性期再灌流療法は、当初の血栓溶解薬を用いた方法からステントを用いる経皮的冠動脈インターベンションによる再灌流へと変貌を遂げています。そうした変化の背景には、粥腫破綻すなわちプラーク・ラプチャー(Plaque Rupture)を基盤とする急性冠症候群(ACS)と総称される病態生理の理解が挙げられます。
  そして治療法の進歩は、かつて30%といわれた急性心筋梗塞の院内死亡率を、5%前後に低下させました。しかしながら、プラークがどの時期にどのようにして破綻するのか、その機序は未だ完全には解明されていません。そこで本セッションでは、最新のモダリティーや生化学マーカーを用い、ACSの病態を多角的に検証するとともに、長期予後を見据えた新たな急性期治療の方向性を検討したいと考えています。

 まず日本大学の廣高史氏は、血管内超音波法等を用いてプラーク破綻の形態を三次元イメージで明らかにされます。かねてからシェーマ等で示される二次元的イメージでは、プラークの破綻は短時的かつ単相的現象のように描かれていますが、実際には地震による地盤割れを思わせる様相を呈しています。同氏が確立したプラーク破綻の三次元イメージングは世界的にも珍しく、印象深い発表になるものと期待されます。
 好中球−血小板凝集が、血小板動態のマーカーになりうることはすでに知られています。2人目の演者である藤沢市民病院の荒川健太郎氏は、ACSにおける血管内腔壁プラークに観察される炎症反応に基づき、ST上昇型心筋梗塞患者のプラーク破綻における好中球−血小板凝集の意義について論じられます。
 兵庫医科大学の羽尾裕之氏は、ACSの病態と薬剤溶出性ステント(DES)留置後の冠動脈リモデリングについて、外科病理学の視点から解説されます。動脈硬化進展における血管平滑筋細胞の分離・増殖の意味合いを総括していただけるものと思います。
 以上の3題は、プラーク破綻をキーワードに、心筋梗塞をはじめとするACS発症の機序に臨床と病理から迫るという内容です。

 後半は、ACSの治療における再灌流療法以外のアプローチについてご紹介したいと思います。ACSでは、今もなお心肺停止が大きな課題となっています。心筋梗塞による死亡率そのものは前述の通り飛躍的に減少しましたが、病院に到着する前に起きる院外心肺停止の蘇生率は20%程度、ショック状態で搬送された場合の生存率も50%程度にとどまっています。東京都では、そうした急性心血管イベントへの迅速な対応を目的に、1978年に東京都CCUネットワークと呼ばれる救命救急組織が立ち上げられました。実績を重ねているこの組織が、現在はどのような方法で患者を救命し、社会復帰を支援しているのか、同ネットワーク研究会の立花栄三氏にご報告いただきます。
 ACS治療では、内科的治療のみでは限界があるため、外科的介入も当然考慮されます。しかし、外科手術を施行した重症の冠動脈疾患患者の予後は、待機的な冠動脈バイパス手術(CABG)に比べて予後は悪いといわれています。そこで日本大学の瀬在明氏には、心臓血管外科領域の視点から、hANP(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド)の活用という、内科的治療の併用の意義についてお話しいただきます。

 セッションの最後では、近畿大学の岩永善高氏が重症ACSにおける二次予防をテーマに、血管内視鏡による評価の有用性について解説されます。再閉塞やイベント再発の可能性をどこまで予測できるのか、急性期再灌流療法のbeyondに広がる、新たなACS治療の手がかりを探ります。

2009.2.26