スタチン使用で糖尿病リスクが9%上昇
13件の無作為化試験のメタ分析の結果
スタチン使用により糖尿病リスクが9%上昇することが、13件の無作為化試験のメタ分析で明らかになった。英Glasgow大学のNaveed Sattar氏らがLancet誌電子版に2010年2月17日に報告した。
これまで、スタチンの有効性と忍容性、安全性は高いと認識されてきた。だが近年、スタチンの使用と糖尿病発症の関係が懸念されている。JUPITER試験(関連記事はこちら)をはじめとする複数の大規模無作為化試験で、スタチン投与群における糖尿病リスク上昇が示されたためだ。
そこで著者らは、スタチン使用と糖尿病発症の関係を明らかにするため、メタ分析を行うことにした。公表された情報のみならず、研究者から直接得た未発表の情報も分析対象にした。
Medline、Embase、コクランセントラルに1994〜2009年に登録された、スタチンに関する無作為化試験を抽出。対照群に標準治療または偽薬が用いられており、登録者数が1000人を超え、介入群、対照群ともに1年超追跡していた研究を選んだ。ベースラインで糖尿病だった患者、臓器移植を受けた患者、血液透析を受けている患者などを組み込んでいた研究は除外した。
ランダムエフェクトモデルを用いて糖尿病罹患リスクを推定した。
条件を満たしたのは13件の研究で、9万1140人を登録していた。うち2件はスタチンと糖尿病リスクの関係を示した試験だった。JUPITER試験はオッズ比1.26(1.04-1.51)、PROSPERはオッズ比1.32(1.03-1.69)と報告している。
13件の研究の追跡期間の平均は4年で、その間に4278人が糖尿病を発症。2226人がスタチン群、2052人が対照群だった。
対照群と比較したスタチン群の糖尿病のオッズ比は1.09(95%信頼区間1.02-1.17)で、スタチン治療は糖尿病罹患リスクを9%上昇させることが示された。スタチンの4年間の使用は、255人(150人-852人)に1人の割合で過剰な糖尿病患者を生んでいた。1000人-年当たりの糖尿病発症率は、スタチン群が12.23、対照群は11.25となった。
研究間の不均質性は低かった(I2=11%)。だが、著者らは、ベースラインの年齢、BMI、治療期間のLDL-コレステロール値の変化が個々の研究の間にわずかな差をもたらす可能性を考え、メタ回帰分析を行った。すると、スタチン使用と糖尿病の関係は、より高齢の患者を対象としていた研究で高かった(メタ回帰のp=0.019)。しかし、ベースラインのBMIや治療によるLDL-コレステロール値の変化は有意な影響を示さなかった(それぞれメタ回帰のp=0.177と0.102)。
著者らは、「スタチン治療は、わずかではあるが糖尿病罹患リスクを高めるが、冠イベントの低減という利益と比較すると、リスクは低い」とし、「心血管リスクが中〜高程度の患者と、心血管疾患患者ついては、現行のスタチン適用方針は変更すべきではない」と述べている。
一方で著者らは、心血管リスクが低い患者にスタチンを投与した場合の利益とリスクの関係は明らかではないことに注意する必要があること、また、高齢者にスタチンを適用する場合には、血糖値の監視を行った方がよいとの考えも表明している。
原題は「Statins and risk of incident diabetes: a collaborative meta-analysis of randomised statin trials」、概要は、こちらで閲覧できる。
親水性スタチンを用いた研究と親油性スタチンを用いた研究の糖尿病リスクはほぼ同様だった。
(大西 淳子=医学ジャーナリスト)
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